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 その日の夜、子供達が眠った後、父さんが任務で土産として買ってきた酒の晩酌につきあえとやってきた。

 建前は土産の旨い酒を皆で飲もうということだろうが、本音はこの間の執務室での事を聞きだそうということだろう。

 いつも飯を食う居間に大人4人が雁首そろえて座るその様はちょっと変な感じだった。
 それでも俺は父とは酒を酌み交わすことなどできないと思っていたので余りの感動にうっかり涙ぐんでしまった。
 そんな俺の様子に父は何か感じる事があったのか暫くの間杯に注がれた酒をジッと見やっていたが、何かをふっきるようにそれだけは一気に飲み干してしまった。

 ほど良く酒がまわってきたころを見計らったようにマナさんが口火を切った。

「・・・クロちゃん。話せるところだけでいいからもっと詳しいあなたの情報を頂戴。じゃないと何も始まらないし出来ることもできないわ・・・」
 そうとても心配そうに俺を見やりながらそう聞いてきたのだった。
 そう言われて俺も心が揺らいだ。
 だから俺はしばし杯に揺らぐ酒を見やりどう応えようかと苦悩しそして覚悟を決めるとその酒を一気に飲み干したのだった。

「・・・先日火影様も言いましたが、俺の名は・・・ はたけ カカシ です。・・・多分ですが、俺が開発していた新術の暴走が原因で過去に飛ばされたのだと思われます・・・」
 それだけ言って俺は手酌で酒を注ぎまた一気に煽った。

 その後特に質問もなかったので俺はまた少し酒を満たした盃を眺めながら考えをまとめてみた。
 そしてこれ以上何も漏らすことが出来ないと思い最後に一言して酒をまた一気に飲み干し俺の思いをこぼした。
「・・・俺はどんな事をしてでも帰るんです。彼の居る場所に・・・。原因がたとへ新術の暴走でなくても、この時代(ここ)に方法が無かったとしても必ず帰るんです・・・」
 最後のほうは、ここにきてからずっと考えないようにしていた事を、泣きごとを、ずっと我慢していたことを、苦渋を吐き出したのだった。
 目の前にいる人たちは、間違いなく自分の親で、その親が心を許した親友たちなのだ。
 俺は、今この瞬間だけ自分の不安を親に癒してもらおうとする子供だった。

 そんな俺の苦悩の声を聞いた彼らは、結局俺からこれ以上の情報を聞き出すことをあきらめたのか、大人を代表してか、あんなに俺の事を煙たがっていた父さんが俺の頭をぽむぽむと軽く手で頭叩くようにした後、まるで犬でも撫でるように俺の頭を一撫でしてその手をどうしようか迷った末に俺の盃を持ち上げて俺に持たせるとそれに酒を継ぎ足してそっぽを向いてしまった。

 どうやら父さんは俺の頭をなでたことに照れたのを隠す為に杯を俺によこし酒を注いだようだ。
 それからしばらくは誰も声を発することなく俺たちは黙々と酒を酌み交わしていた。

 しばらくすると酒を飲みながら俺を見ていた父さんが
「本当にお前は未来から来た俺の息子のカカシ何だなぁ」
としみじみと周りに聞こえるか聞こえないかの声でそう呟いていた。
「俺からしても、何かこそばゆくって不思議な感じですよ」
と聞こえなくてもいいやぐらいの小声でそう答えていた。
 そして俺は初めてココに来て父と打ち解ける事が出来たような気がした。


 ふと気が付くといつの間にか父が突っ伏していた。
 どうやらつぶれてしまったようだ。

 周りを見回してみるとかなりの量の空瓶が転がっていた。
 ちょっと飲みすぎたかなっと思い俺はそろそろこの酒宴を終わりにしようと声をかけようとした。

「ちょっと気になってたんだけどさ。クロちゃんってサクちゃんの事どう認識してるの?」
 おもむろにマナさんがそんなことを聞いてきた。
 どう認識って・・・コレを見た後にそんなこと聞くかなぁ〜と思い思わずため息をついた俺を見て、マナさんは慌てて言葉を付け足した。
「もちろん。こんな姿を見る前の時のことよ」
とそう言った。
 それを聞いたシンさんも興味をそそられたらしくこちらを気にしていた。

「・・・俺にとって父さんは・・・、尊敬に値する忍で・・・、寡黙で・・・、忍だから自分にも他人にも厳しくって・・・、誰を贔屓することなく等しく平等に厳しかった。それは息子である俺でも変わりなくって・・・、それに俺はすでに下忍だったし・・・」

 一息を入れるつもりで俺は手酌で酒を継ぎ足し一気に煽った。
 そして深呼吸一つして続きを話始めた。

「世界で一番尊敬してましたよ・・・。ここに来るまでは・・・」

「俺の父さん像は本人を目の前にして粉々に打ち砕かれましたけどね。・・・今では父さんのすべてを知ることが出来て・・・、だからココに来れてよかと思ってます」
 そう言って俺は晴れ晴れとした笑みをきっとその顔に浮かべていたと思う・・・。

 俺の言葉を聞いた2人はお互いを見やりマナさんがぼそっと言った。

「クロちゃんがこの歳になるまで本性を悟らせなかったなんて・・・サクちゃんやるわね〜♪ 私も今からイルカにカッコイイ母ちゃんって思ってもらうように頑張って洗脳しようかしら・・・」
とそんなことを言い出した。
 俺はちょびちょび飲んでた酒を思わず噴き出してしまった。
「ちょっ!! いきなり何言い出すんですかマナさん」
 俺はマナさんのその言葉に酔いも醒めんばかりに驚いた。
「今のままでお願いしますよ〜。俺イルカ君には今のまま大きくなってもらいたいです。彼のあの心の持ちように俺何度も救われているんです。だからお願いしますマナさん、今のままで・・・」
 俺は困り切った声を出してマナさんに懇願したのだった。

「ふぅ〜。クロちゃんにそう言われてしまってはしょうがないわね。・・・その交換条件というわけじゃないのだけれど・・・ねぇ〜少しだけ本当の事を答えてクロちゃん・・・」

 急にマナさんが真面目な顔をして俺に向き直った。
 だから俺もきちんと姿勢を正してマナさんに向き直った。

 俺の覚悟を受け取るとマナさんはおもむろにその口を開いた。
「・・・サクちゃん・・・もしかしてすでに亡くなってない?」
と静かに俺に問いただした。そしてさらに衝撃なこともその口から零れ落ちたのだった。
「・・・それに、私たちも・・・。ねぇ〜、カカシ君正直に答えて・・・。君の生きている時代に私たちはもう生きていないんじゃないの?」

 俺はマナさんのその言葉に戸惑いを隠せなかった。
 さっきのたったそれだけの話だけでそこまで推測するとは・・・。
 そして臆することなく自分たちの運命を聞いてくるとは思いもよらなかった。

「・・・言いずらいのは分っているつもりよ・・・。でもね、君がその歳になるまでサクちゃんの性格を把握出来ていないってとっても不自然なのよ・・・。仮にも君は上忍なんだから・・・。それにね、君の私たちへの接し方は変なのよ・・・。まるで始めて会ったそういう接し方なのよ・・・。だから推測したの、君は私たちと過ごしていた事を覚えていないほど私たちとあっていないと・・・。そう考えるとね。おのずとね・・・、そんな答えが導きだされちゃったのよ。・・・細かいことは聞かないわ。お願い正直に答えて。・・・私たちは、君の生きている時代ではすでに死んでいるのね」
と、確認ではなく、確信してそうマナさんは言うのだった。

「・・・・・・、は・・い・・・」
 俺は2人に聞こえるか聞こえないかの音量で答えるのが精一杯だった。

 俺の答えにしばらくは思い沈黙が降りたが、2人は何かを吹っ切るように声をそろえてたった一言『ありがとう』とそう答えたのだった。

「でも、クロちゃん吃驚したんじゃない? 始めてこの時代のサクちゃんを見たとき。だってサクちゃん、カカシくんの前では沢山猫を被ってカカシ君がとっても尊敬するお父さんを一所懸命演じていたものね」
と、マナさんは重い沈黙を打ち破るように、クスクスと笑ないながらそう言った。

「・・・えぇ・・まぁ〜。卒倒するぐらいには驚きましたけどね・・・」
 俺は卒倒した時の事を思い返して、ほんのり羞恥に頬を染めながらそう答えた。
「そうそう。クロちゃん知ってる? サクちゃんってね、私たちと任務に就くときは必ず君の事惚気てくるのよ。すっごくデレデレしてね♪」
 俺の答えを聞いたマナさんは、俺にもっと父さんの事を教えてくれるらしく、そんな事を言い出した。
 俺は、マナさんの言葉に羞恥しながら、俺の知らない父さんの話を2人から聞いていた。
 おもにマナさんが率先して、父さんがどんな事を惚気たのかを俺に聞かせてくれたのだった。

 ・・・父さん・・・、その惚気の内容は恥ずかしすぎです・・・勘弁してください・・・

 マナさんたちから、父さんの話や、惚気の内容を聞きながら俺は内心そう思ったのだった。


 後に、俺はこの酒宴があってよかったと心底思った。








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