9 部屋の中には、火影様の他にシンさんもすでにいた。 どうやら俺の用向きはすでに分かっていたようだった。 「任務御苦労じゃった」 紫煙をふぅーと吐き出して何かに疲れたように火影様は俺に労いの言葉をかけてくれた。 俺は言葉もなく軽く会釈をするにとどめておいた。 しかし、火影様のその言葉の後は重い沈黙がおりた。 俺はその沈黙を払うように思い切って本台を切りだした。 「俺自身の素性ですが、話すかどうかは火影様のご決断に任せます。・・・ただ、俺自身としましては、出来る事なら余り知られたくはないのですけどね」 最後は茶化すように答えた。 しばらく火影様は煙管を吹かしながら渋い顔をしていた。 そして何かを決意したのか盛大に紫煙を吐き出すと 「こ奴の本当の名前は、はたけ カカシと言う。それ以外今は秘匿事項だ!!」 俺の名前を聞くと2人は息を飲み、父はそのショックから立ち直ると火影様に食ってかかった。 「どういうことですか!! 火影様。それはこいつが俺の息子と同一人物と言うことですか!?」 やはりというべきか、シンさんと父は俺の本当の姿を見て思うところがあったらしい。 父はすごい剣幕で俺を指さして火影様に食ってかかった。 火影様は黙秘を通すき満々のようだったので、俺も黙っている事にした。 かなりの沈黙の後、火影様が 「とりあえず、コヤツの世話はうみの、話していた通りに引き続きお前の家で頼む。それと先の件だがお前らの息子の護衛はコヤツに任せることとする。 よって例の任務は予定通りついて貰うからな・・・ 以上じゃ!!」 そのお達しと同時に結界が解かれた。そしてまるで先ほどのお返しとばかりに火影様は厭らしい笑みを浮かべながら 「後、自分の事は自分で判断してソヤツラに話せ!! ではな」 そしてシッシッとばかりに俺たちに向かってその手を振ったのだった。 それを合図に2人は部屋を退出するために一礼してその踵を返した。 俺は慌てて 「ちょ、待って下さいよ・・・。せめてこの姿にまた例の封印だけでも掛けてくださいよね!! さすがにこの姿は色々と問題ありでしょうに・・・。面倒事は俺いやですよ」 と精一杯の動きで火影様に詰め寄った。 火影様は俺のその言葉を聞くと、チッと舌打ちをして、覚えておったかと物騒なことをブツブツと呟いて不承不承と俺に封印術をかけてくれた。 俺は内心火影様に対して、 『俺で遊ぶなー!!』 と絶叫しといて素知らぬ顔を貫いた。 そして、一連の作業が終わると俺も一礼をして先に出て行った2人を追いかける様にうみの家へとその足を向けた。 ところが、建物を出ると2人が律儀にも俺を待っていてくれた。 ちょっと意外だった俺は思わず 「雁首そろえて何ですか!?」 2人の顔を交互に見やった。 俺に声をかけられた2人は、俺にどう接していいのか分からないと困り果てて眉が八の字になり、困惑の表情を浮かべた顔をしていた。 唐突に父さんが 「お前の事は、クロって呼ぶ事にしたからな!!」 そう叫ぶと踵を返してこの場から逃げるようにさっさと行ってしまった。 そんな父さんを唖然とした姿で、俺とシンさんは見送った。 しばらくの間呆然としていると、クスっとシンさんが笑って 「そう言う事だからよろしくね♪ クロ。何時までもここにいてもしょうがないから俺達も行こうか」 体調のあまり良くない俺を気遣うようにゆっくりと歩み出した。 俺は2人の心境の変化は分からないが無駄かも知れないと思いながらもこれだけは言ってみた。 「クロは止めて下さいよ・・・。まるで犬か猫みたいだから勘弁して下さいよ〜」 苦笑いをたたえながらそばにいない父さんはしょうがないとしてシンさんに講義してみた。 「もう、遅いですよ。マナがあなたの事をクロちゃんと決めてしまったので変更は聞きませんよ♪ 子供達ともども皆からそう呼ばれると今から覚悟しておいた方が良いと思いますよ♪」 シンさんがとんでもない爆弾発言をとっても楽しそうに落とした。 「勘弁して下さいよ・・・」 俺はほとほと困り果てて講義してみたが、あのマナさんが相手ではきっともうどうにも出来ないだろうことを俺は実感していた。 なぜ、あの時呆けてないで否定しなかったのだろうと今更ながら後悔しまくっていた。 街中の分かれ道の所に立っている父さんに追いつくまで俺はシンさんに今の時代の日常の事を聞いていた。 分かれ道で俺達を待っていた父さんは俺達が追いつくと俺をキッと睨みつけて 「お前、忍獣は何かいるのか?」 といきなり聞いて来た。 足を止め俺は不思議そうに聞き返した。 「なぜ今そんな事を聞くのですか?」 「・・・お前のその体質なら一匹ぐらいいた方が色々と便利だと思ったから・・・。で、どうなんだ!! 忍獣、いるのか!! いないのか!?」 心配しているのか、していないのか分からないような物言いをして問い詰めて来た。 確かに俺も忍獣がいるなら色々と助かると思うが、いかせん自分はこの時代の人間ではない。だからこそこの時代の忍獣と契約するのはどうかと思うし、易々と契約してしまっていいものかとも思うのだった。 「・・・確かに、便利かとも思いますが・・・。俺はここで忍獣と契約を結ぶ気はありませんよ」 ときっぱりと自分の意思を伝えた。 俺の言葉を聞いた父さんはしばしば考えて 「……犬は平気か?」 と端的に聞いて来た。 こいつ俺の話聞いてたか!? と思いながらも 「一応、・・・忍犬を使っていますが・・・」 とうっかりじと目で彼を見つめてしまった。 「忍犬か・・・。なら、契約じゃなくってしばらくの間借りれるか・・・!?」 とブツブツ言いだしたと思ったら、独り納得し俺達2人に向かって行くぞ!! っと言い捨てて帰り道と違う道を進みだした。 シンさんは慌てることなく父さんの後をついて歩き出した。 俺は吃驚してしまって、ただでさえ動きがぎこちないのに出遅れてしまい、2人との間は広まるばかりだった。 しばらく歩くと俺も行き先が何処か何となくわかってきた。 思った通りに辿り着いた所は、犬塚家の犬舎だった。 父さんは、さっさと奥の家へと入って行った。 俺は何となく犬舎の方へと足を進めていた。 ここに来るのも久しぶりでありながら、初めてである。 そんな変な感じがした。 俺はあてどもなく犬舎の中をぶらぶらと歩きまわっていた。 特に目的があったわけでもないのだけれど でも何か予感みたいなものがあった。 まるで何かに呼ばれるように・・・ 俺は気がつくと子犬ばかりを飼育している犬舎にやって来ていた。 そして俺は独りでここにいた。 シンさんとはいつの間にか逸れてしまっていた。 その犬舎の片隅に一風変わった生き物がいた。 一見して見た目は他の子犬と同じようにも窺えるが、他の子犬達といるとどことなく違和感をぬぐえず。 そいつはそこにいた。 俺がジッと見つめている事に気がつくとその生き物はトテトテとゆっくりと近づいてきた。 俺はそいつが近づいてくるのを見て、柵のそばにしゃがみ込んで、その子犬と思しき生き物に己が手を柵越しに近付けた。 そいつは犬のように俺の臭いを嗅いできた。 一通り嗅ぎ終わると、その舌を頑張って懸命に伸ばして俺の指先をチトチトと舐めて来た。 俺はそいつを驚かせないように気をつけながら立ちあがり柵の向こう側にいるそいつを抱きかかえて柵に腰を下ろした。 膝の上に乗っけて、俺はその不思議な生き物の頭を撫でてやった。 するとそいつは、フサリとその尾を一振りすると俺のその手に頭を摺り寄せて来た。 犬のように尻尾をブンブンと振り回しはしないけど、ゆっくりとフサリ、フサリと尻尾を振り、まるで猫のように俺の手のひらにその頭を摺り寄せて来る。 本当に不思議な生き物だった。 俺はそいつを見つめながら飽くことなく撫で回していた。 そいつも飽くことなく頭を摺り寄せていた。 その姿は本当に嬉しそうで、俺のそばにいる事にとても安堵しているようにも見え、又どことは無く緊張しているようにも見えた。 その姿は、まるで捨てないでと訴えている様だった。 どのくらいの間俺達はそうやって時間を費やしていたのか、いきなりかけられた声によってその不思議な時間は幕を下ろしたのだった。 「やっと見つけた!! こんな所にいたのかい・・・ 探しちまったじゃないかい!!」 そう声をかけた女の人と一緒に父さんも犬舎へと入ってきた。 「おや!? 珍しい事もあるもんだ!! そいつが人に懐いているなんて初めて見たよ」 ここの主(あるじ)は俺の膝の上の生き物を見てそう言った。 「コイツ、犬じゃないですよね!?」 俺は念の為の確認を主に問いかけた。 「!! アンタ良くわかったね・・・この仔が犬じゃないって・・・」 とても感心した声で答えられて俺は話しても大丈夫な程度に真実を口にのせた。 「一応、俺は忍犬使いですから・・・、他の犬と一緒にいるのに見わけがつかないって問題でしょ!? コレは・・・」 と俺は膝の上の生き物に視線を向けた。 「あぁ。アンタも忍犬使いなのね。それなら分かるわね」 と主は納得顔で頷いた。 「サクモさんの話では、貴方に忍犬を一頭暫くの間貸して欲しいと言うことだったけど・・・、コレも何かの縁と諦めてその仔と契約結んであげなさい。珍しい事なのよ、その仔みたいな妖獣が人に寄ってくるなんて・・・。コレは憶測だけど多分その仔は貴方を主と定めてしまったと思った方がいいわよ。諦めてその仔と契約を結んで上げてちょうだいな!! 事情は知らないけどそれが多分貴方がここでこの仔に出会ってしまった運命なんじゃないかしら?」 と主である彼女はそう捲し立てて、膝の上にいる生き物を俺の忍獣としての手続きをさっさと済ませてしまい、呆然としている俺と邪魔っけな父さんを外で待っていたシンさんの所に放り出して「じゃぁねぇ」と手を振ってさっさと家の中へと戻って行ってしまった。 俺達は呆然とし、外で待っていたシンさんはそんな俺達にお構いなしに微笑んで 「カワイイ仔を貸してもらって来たんだね〜」 何って呑気な事を言って、家に帰りましょっとばかりに家路へと足を向けた。 まだちょっと思考が現実に追いついていなかったけど俺はシンさんの動きにつられるようにして足を動かして腕に小さな生き物を抱いたままシンさんの家へと帰って行ったのだった。 |