バンッ!

 とそのままの勢いで蹴破るついでに火影様が張った防音結界をいともたやすく破ってその者は飛び込んできた。

「このくそ爺! この任務は何だー!」

 第一声がそれだった。

 飛び込んできた者は、それは…
 俺は彼を見て我が目を疑った。
 だってどう見ても飛び込んできた男は、自分の父親だった。
 俺は、物静かな彼しか知らなかった。
 冷静で、声を荒げる姿など見たこともなかった。
 まるで別人を見ているようで俺は彼を奇異の目で眺めてしまった。

 俺の父親である彼は、俺の前では決して声を荒げる事はなかった。
 物静かになんに対しても冷静な判断を下していた。
 たとえそれが俺のことであってもその態度は一片たりとも変わることがなかった。
 子供心にこんな誰に対しても平等で冷静で仲間を大切にする父さんみたいな忍になりたいと思っていた。
 しかし俺の目の前の彼はどうだろう。
 任務の内容は知らないが、火影様に対して任務が気に入らないとまるで子供の駄々っ子のように食ってかかっている。
 本当にこの目の前にいる男が木ノ葉の白い牙と恐れられ、数々の武勇を残した男なのかと余りにも思い出の中の彼と違いすぎて、俺は一瞬どこか別の過去に迷い込んでしまったかと胆を冷やした。

 そうこうしているうちに火影様に食ってかかっていた彼は不躾に眺める俺の視線に気づくと初めて部屋に火影様以外の人がいたことに気づき、火影様に眼でこいつ誰?と聞いていた。

 はぁ。と盛大に溜息を吐いて火影様がやれやれといった様子で
「秘匿性の高い話をしているところにいきなり飛び込んできたヤツに答える必要はない」
 ときっぱりと突っぱねた。
 火影様に突っぱねられるともう俺には興味が失せたのか任務のことでギャンギャンと吠えていた。

 こんな姿の父親を知らなかった俺は何かこう頭をガツンと殴られたような衝撃を受けてもいた。そのせいか、俺は火影様の執務室に近づく気配に気づくことが出来なかった。

 コンコンと開きっぱなしの扉を礼儀正しくノックして「うみのです。失礼します」とだけ言い置いて火影様の返事もなく入ってきた。
 そして、ずんずんと火影様の机の前までやってくると力の限り バンッ! とその机が壊れんばかりにその手をついた。
 そして、俺の父さんとは違った凄みをもって火影様に詰め寄っていた。
 そんな二人の様子を見て、俺は(あぁー。今日はもう無理っぽいなぁ。これからどうしようかねぇー)などとくだらない事を考えている間に話が進んだのかいきなり火影様が話を振ってきた。

「とりあえず今日はみんな帰れ! 明日またあらためて来い。うみの、すまんが部屋の前で待っておれ」

 言われて二人は一礼して部屋を出て行った。
 すぐに火影様が結界を張りなおして
「とりあえず今日は『うみの』の家で世話になれ… んー、とりあえずの呼び名をどうするか……『ギンロウ』と『コクロウ』どっちが良いだろうか?」
と俺に聞くような独り言のような問いを漏らしていた。
 たとえ、三代目の独り言だったとしてもここで意見を言っとかないと後ほどとんでもない呼び名をつけられてしまうよりは良いだろうと俺は三代目が答えを出すよりも先に答えておいた。
「へんな突っ込みを入れられたら困りますし、私(わたくし)は髪の毛は黒のままで過ごしますので『ギンロウ』はちょっと…だから『コクロウ』でいいですよ。黒い狼って意味でしょ?」
「なんだ? 銀髪で過ごさないのか? つまらん!」
 チッと舌打ちまでしてとってもつまらない顔をして煙管を打ちつけた。
 すると結界が消えうせた。
「もう良いぞ、入って来い!」
 その声の後外で待ってた男は律義に「失礼します」と返してから入って来た。
「うみの、すまんがこの訳あり暗部の小僧を今日お主の家で預かってはくれぬか。ついでに、コヤツと一緒に明日また来い。それまでにお前のことをどうするか決めておくとしよう……」
 前半は男に、後半は俺にだけ聞こえるように答えた。
「…御意!」
 そう答えた後俺に視線を向け
「とりあえず、その変化の術解いてもらっていいかな」
とにっこり笑ってそう言った。その眼は暗部の姿のままなら絶対家には連れて帰らないからなと凄みをもって語っていた。
 俺は彼の実力に瞠目しながら火影様に眼で問いかけて、三代目が頷くのを待ってから、変化を解いた。ただ、髪と目の色は黒、写輪眼は封印したままの状態を維持した姿でいた。
「これでいいですか?」
と言い置いて、火影様に会釈して『うみの』と呼ばれた男の方へ歩みを進めた。
 彼は一通り俺を見て満足して頷き
「それなら大丈夫だ。来い!」
 そして彼は火影様に会釈をして踵を返し、ゆったりとその場を後にした。

 彼の後をついて建物を出るとそこには先に出ていた父親が待っていた。


 そんな光景を見たら軽いデジャービュを感じた。
 それは、まるで俺とイルカさんを見ているようだった。


「シン、どうだった? 爺は何だって?」
 父親は俺を無視して、目の前の男に話しかけていた。
「…この男を今日は預かれと言われましたよ……」
とにこやかに父親に答えてからその男は俺に振り返ると
「そういやぁー、自己紹介がまだだったな。俺は、うみの シンでコイツが、はたけ サクモだ。まっ!! よろしくな」
 ニッコリと微笑んでそう言った。
 その笑顔はなぜか、イルカさんを彷彿させた。
「俺は、コクロウ。……申し訳ないのですが今はこれ以上答えることは出来ません」
 俺は軽く2人に頭を下げた。

「シン! こんな得体の知れない奴を家に上げるのか!?」
「仕方ないだろう。火影様のお願いという名の勅命なんだから…」
と穏やかに答え、後は歩きながら話そうとその眼差しで促してまた歩みを進め始めた。
 俺は寄る辺もない子供のように、おとなしく二人の後をついていった。
「…心配だ! こんな奴をお前の家に上げるなんて…いくらマナもいるからって…… まったくあの爺は何を考えているんだよ」
 などと、父親は俺と火影様の事を悪し様に罵りながら彼の隣りを歩いていた。
 父親の小言をニコニコと聞いていた。彼は親父の余りの言いように苦笑いをたたえて
「しょうがない人ですね… そんなに心配ならサクも来ればいいよ。サクがいればカカシ君といられるとイルカも喜ぶしね」
と彼は茶目っ気たっぷりの顔をして父親に答えていた。
 それを聞いた父親はご機嫌で
「そうそう、いくらシンの家にはマナも居るからってこんな得体のしれないモノを上げるなんて不用心だよねぇ。イルカ君もいることだしね。俺もいればまさに鬼に金棒だしね」
とウキウキと答えていた。

 道すがら俺は完璧に親父に無視をされまくって、シンと名乗った男に話を振られていた。
 俺は何とか冷汗をかきながら返答をしていた。
 俺の返事が気に入らないと父親は俺に聞こえるようにわざと大きな独り言のようにブツブツと罵りの言葉を口にしていた。
 そうこうしているうちに目的の家に辿り着いた。

 玄関の引き戸を開けて彼が家の中に向かって「ただいま〜」と声をかけると家の中からトタトタと軽い足音をさせた何かが玄関先に駆け込んできてそれはシンを見とがめると
「っか〜り! とーちゃー!」
と言いながらその男の胸に一生懸命飛びかかって来た。
 まだ小さなその子供は、どんなに頑張った所でその胸に飛び込むことは出来ないので彼はその子供が地面に無残に落っこちる前に抱きとめた。
 そして二人は満面の笑みを浮かべていた。
 シンと名乗った男は抱きかかえた子供にその頭をウリウリとすりよせていた。
 確かこの時代は…戦時中だったと思うのだけれど……しかし目の前で行われているこの光景は、なんというか平和そのものでしかなかった。
 俺はその光景に唖然とした。しかし、それを見た俺は心なしかホッともしていた。俺がいかに気を張っていたのかを思い知らされた。
 そんな俺をよそに、父さんはその手を子供の頭の上に乗っけてその頭をウリウリと撫で回していた。
「こんにちは。イルカくん♪」
 俺の見たこともない顔をして、いわゆるやにさがった顔とか、顔の造詣が崩れた顔とか、そんな表現がぴったりな顔つきをして、ネコ可愛がりをしていた。
 俺は父親の信じられない姿を見せられて、更に目の前にいる子供がイルカという名前であることなど一度に信じられないことが押し寄せて来てしまったせいか、今目の前の現実を信じたくないのか、思考回路が完全に停止し、体もフリーズしてしまっていた。

 いち早く俺の状態を察知したのは、後からゆっくり出てきた女の人だった。
「シン、何か後ろの子、固まってるんだけど大丈夫?」
 その言葉に子供とじゃれていた男達は一斉に振り返って俺を見た。
 不本意ながら父親が俺の目の前で手をひらひらさせているのをどこか他人事のように俺はながめていた。
「…本当に固まっているねぇ〜 …どうしようか」
 それを皮切りに彼らはあーでもない、こーでもないとさんざん話し合って結局俺を部屋に抱え入れて布団に寝かしつけることに落ち着いたらしい…。






6へ  4へ  NOVELへ


Copyright(C)2009 この写真はフリー素材[*Piece***]様からお借りしています
Copyright(C)2009 ARIJIGOKU