3 とりあえず先ほど中断したとこまでもう一度おさらいをしてみた。 術事態は悪くないようなのだが、やはりちゃんと発動しなかった。 ちょっと違和感がある部分を少し違う角度からアプローチしてみたりして、見方を変えてみたりしてみた。 しかし、術は途中で立ち消えるように霧散していく。 どうやってもこれ以上の進展は望めそうもないので、頭の休憩の意味も含めて別の術を弄ることにした。 発動条件に少し形を決めあぐねていた術があったので、ためしにイルカさんに見せてみて、彼に意見を求めることにした。 その術は、遠距離攻撃用の術だった。 雷に性質変化したチャクラを遠くへと飛ばす。 ただ、これだけだと術としての威力に劣る。 そこで、形態変化でもっと明確な意思のある形をとらせその威力と範囲を決定する。 そこで忍犬使いの俺は、犬の形をとらせて発動していた。でも、なぜか、しっくりこなかった。 たぶん、術との相性に少し差異が生じているのだろう。 俺はこれ以上どうしようもなかったので、丁度良いとイルカさんの意見を聞くことにした。 バチッ! 次の瞬間には稲妻が走りぬけていた。 簡単にいえば、横に走る落雷といったところか? 「ちょっといいですか?」 そう言いながら俺はイルカさんの側へと寄って行った。 「今の術を見てどう思いますか?」 「……そうですねぇ。…術としては少し物足りないですよねぇ」 俺の問いにイルカさんは逡巡しながらもしっかりと答えてくれた。 術としては見劣りするし、威力も余りない。 やはり、なんかの形をとらせた方がよさそうだ。 しかし、犬の形はしっくりしないし。 また、形によっては、威力は更に半減してしまう。 やはり、自分の閉じた考えだけじゃなく、第三者(イルカさん)の意見を聞くのも新たな発見に繋がるかも知れない。 それに、もしかしたらイルカさんとの初めての共同作業で新術を作れる滅多にないチャンスかも知れないし などと、邪な考えを抱きながら俺は更に彼に質問を重ねた。 「実は、今の術に、生き物の形を持たせようと思うんですよ。でも、俺が考えたのは、犬の形なんですが、どうもしっくりこなくって……。イルカさんなら、何かいい案でも知っていないかと思いまして……、できればあなたの率直な意見が知りたいんですが」 俺の話を静かに聞いた後、イルカさんは熟考し始めた。 眉間に皺を寄せて、真剣に考えている凛々しいイルカさんの顔を俺はこんな顔も好き。と、ここぞとばかりにガン見した。 「…そうですね。確かにカカシさんは、忍犬使いだから、犬か、狼の形にした方が良さそうですよね。でも、術に違和感が出てしまうんですよね……。そうそう、カカシさん。犬ってネコ科らしいですよ。なら、豹とか、虎とか、ライオンでもいいのではないんですか? 後、どっかで聞いたことがあるんですが、雷獣という雷を操る魔物がいるそうです。何でも姿は、猫だそうですが、大きさは俺たちと変わらないか、それより一回りほど大きいと言われているそうですよ。……こんな話でも役に立ちますか?」 イルカさんは最後にそう言って、不安そうに俺を見た。 目から鱗だった。さすが、アカデミーの先生だけはある。 博識で、とっても術の参考になる。 さすが、俺のイルカさんだ。ととても嬉しくなってきた。 「ありがとうございます。さすがイルカ先生ですね。とてもためになります。そうか、雷獣ねぇ。そこは考えつかなかったなぁ。豹とかも捨てがたいな。でも・・・」 俺は、前半でイルカさんにお礼を言い、後半は自分の考えをブツブツと口の中で転がしながら、その思考に没頭してしまった。 そして、考えながらまた、元いたところへと無意識に戻っていた。 (うーん。形作るなら犬の方が構築しやすいかなぁ。でも、雷獣も捨てがたいし、……でも、犬がネコ科なら、犬の良いところと猫の良いところを併せ持ったのは、どうだ。あっ、もしかして雷獣ってネコ科の動物のいいところを寄せ集めた動物かもしれないな。なら、俺が一番構築しやすい犬系の形にして、それにしなやかさと、力強さと……。よし、これならいけそうだ。) そんなことを考えて術の形を、形態の変化を一つ一つしっかりと決めていった。 術の全貌が見えてきたので、試しにもう一度術を発動してみることにしてみた。 チャクラを雷に性質変化させて、思い描いた形態の変化を一つ一つ丁寧に練っていった。 そして、新術 俺たちの雷獣を解き放った。 バチチチチチチチ いつもとは違う音色を残して発動した術は解き放たれた。 ひと時の余韻を残して世界は静寂に包まれた。 余りのことに俺は言葉を発することもできなかった。 発動された術は想定していた威力をはるかに上回る出来栄えだった。 まるで体の一部のように、いや、まさに一部そのものだった。 手を伸ばすように、どこまでもとどく新たな体の一部。 術という感覚がまるで感じられなかった。 俺の中から飛び出して行った。 もう一人のオレ そんな感じだった。 違和感が何もない。 まさに理想の術 思わずイルカさんを見やったら、彼は感動のあまりフルフルと震えているようだった。 その瞳は、まるで夢と希望と期待と、未来を夢見る少年のように輝いていた。 その両手はギュッと堅く握られていた。 余りの感動のしすぎでフルフルしている彼を見ていると俺は上手く術が発動して良かったと思った。 こんな少年のようなイルカさんなどなかなかお目にかかれないと 俺はきっとにまにましながらしばらく彼を眺めていたと思う。 「いかがでしたか? イルカさん」 俺に問いかけられて、イルカさんは興奮冷めやらぬままに 「す、凄いです。あんなに、綺麗で壮大でしなやかで……。カカシさんの術をこんな目の前で見れたなんて幸せです。一緒に任務に就くことなどきっとないと思っていたので、カカシさんの術なんて一生お目にかかることなどないと思っていましたから本当に嬉しいですよ」 その顔に満面の笑みを浮かべて俺に笑いかけるイルカさんの顔が眩しかった。 まるで自分の事のように喜んでくれるそんなイルカさんに俺はなんか照れくさかった。 イルカさんのおかげか、今日はとてもサクサクと術が形になっていくようだった。 確かに新術と言ってもいい術が何個か出来たがやはり満足がいくような時空間忍術には到底及ばなかった。 しかも、出来ていく術はどちらかと言えば、写輪眼の助力でより精度と威力が上がった雷遁系の忍術が主に思い浮かんでいった。 雷切りはどちらかと言えば近距離用攻撃の術だったので、遠距離系の術が完成してよかったと思う。でもやはり目指していたものとは程遠い。 そこで、少しやり方を変えてみることにした。 しかし、それがあんな事態になろうとはこのときの俺は思いもしなかった。 「イルカさん、最後にもう一度時空間忍術をやってみますね。今日はそれで終わりにします。……その、最後まで見ていくんですよね?」 「もちろんです。一緒に帰りましょうね」 そしてイルカさんはとても嬉しそうに微笑んだ。 その笑顔に俺はどぎまぎしながら訳も分からず頭部に手を持って行きガシガシと頭をかきむしった。 どうも落ち着かない心を穏やかにするために数回深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。 平常心。平常心。 心で唱えながら、俺はもう一度術を発動させるためにチャクラを練り始めた。 チャクラを練りながら俺はふと思った。 このまま術を発動させようとしても結局さっきと同じだろう。 この術を確実に発動させるにはきっと何かが足りない。 ……どうすれば……。 奴のように瞳がもう一段回変化できれば… あっ! もしかして、この眼にチャクラをためることができればもしかすると 思い立ったが吉日とばかりに、俺は左目にチャクラを集めだした。 かなり大変な作業だった。 集めた先から、写輪眼の使用によって少しずつ削られていく。 チャクラの残りもだんだんと少しになっていく。 やばいこのまま悠長に溜めてられない。 その焦りがいけなかったのか、俺は急激に左目にチャクラを溜めだした。 そうこうしているうちに、だんだんと左目が熱くなってきた。 実際に瞳の模様が変わっているのかさえ分からない状態だが、確実にチャクラはたまっていった。 俺の焦りに呼応するように急激に……。 後ちょっと、そう思った瞬間 俺は自分の力量を誤ったのだった。 この術はとても危険な術 それをうっかり失念して 術を発動することに 固執してしまった だからきっとこれは俺へのバツ 左目が燃えるように熱くて とても耐えられない激痛が俺を襲う その瞬間 左目に集めてたチャクラが制御を離れた。 密に集められた力が制御を離れて暴れだす。 あわてて、もう一度その力をコントロールしようと奮闘する。 しかし、残り少ないチャクラではどうしようもなかった。 俺はあわててイルカさんを守ることに残りのチャクラを優先させることに切り替えた。 「イルカさん、逃げて―!!」 この空間を包む膨大なチャクラ あまりの壮絶さにイルカさんはどうやら動けないようだった。 やばい。思うと同時に俺は、彼を守るための結界を残りのチャクラを全て使って 彼だけを守るために強固に 何にも侵されないように 俺の持てる全てで 作り上げた。 これできっとイルカさんは大丈夫 そこで俺は全ての力を使い果たして力尽きた。 あふれた力は 暴れ ふくらみ その虚空に 全てのモノを 飲み込みそして集束していった。 そして、その力をまき散らすように弾けた。 俺はその力に飲み込まれていった。 闇が俺を包む瞬間 イルカさんが俺を呼ぶ声を聞いたような気がした。 |