2 そんな彼が、前もって教えていたココにやって来た。 「カカシさん、お疲れさまです」 キリのよさそうなところを見計らってイルカさんが、俺に声をかけてきた。 俺は一旦新術の開発をきり止めてイルカさんへ歩み寄った。 「お疲れさまです、イルカさん。何かあったの?」 俺が尋ねると、イルカさんは一瞬罰の悪い顔をして、照れながら指で鼻の傷をポリポリと掻きながら 「えぇ―っと。その―、家で独りが寂しかったので弁当持参で来ちゃいました」 明後日の方を見ながらほんのりと頬を染めてそう言った後に、ハッとして、上目遣いに俺を見やった。 「もしかして、邪魔でしたか?」 まるで捨てられた子犬のような瞳(め)で俺を見る。 未だに術は、未完成で開発途中、危険窮まりなくとても許可なんてしたくなかったのだけれど、イルカさんにそんな瞳で見つめられると、俺は強く断ることが出来なかった。 「……。危険なので……できれば…」 溜息を吐き俺は、イルカさんの頬に手を添えて、視線を固定しその瞳を覗き込だ。 イルカさんの瞳(ひとみ)の強さを見て、今断るとどっかからこっそりと見に来そうなそんな決意が見て取れたので、それよりはと俺は了承することにした。 まだ、目が届くところにいてくれたほうがなんかあった時対処のしようもあるし、俺が彼を守ることも出来ると思ってそうした。 しかし、約束を守ることもしっかりと了承させた。 「本当に危ないですから、俺の言うことはしっかり聞いて守って下さいね」 俺は敗北感に打ちひしがれるようにがっくりとしていた。 そんな俺をよそにイルカさんは花が綻ぶような笑みを湛えて、本当に嬉しそうに笑った。 「ありがとうございます。カカシさん」 「約束ですよ」 俺もにっこりと笑って格好良く決めようとしたら、グ〜 っと お腹が盛大に鳴って恥ずかしい思いをした。 しょうがないじゃないか、日が昇るより早くに慰霊碑に行ってその後軽く兵糧丸を口にしたきりなのだから。 それにさっきからイルカさんが持って来た弁当から美味しそうな匂いが漂っていたのだから……。 上忍の忍耐力を持ってしても、任務中でもなければこんなモノなのだから。 イルカさんはそんな俺を見てクスリと笑って 「ちょうど良い時間ですし先にお昼にしちゃいましょ。折角作って来たんですから沢山食べて下さいね」 イルカさんは、俺の手をするりと抜け出て、近くの木陰にお弁当を広げだし、昼の準備をしてしまった。 俺は後頭部に手を突っ込んで髪をワシワシとかき混ぜながらその木陰に赴いた。 流石はイルカさん。お弁当の見た目は色鮮やかで食欲を誘い、栄養バランスがしっかりと計算されていて、そして愛情タップリのお弁当だった。 イルカさんは竹筒を差し出して 「お茶はコレに入ってますからね」 と笑顔でそれを俺のそばに置いた。 「ありがとうございます。それでは、いただきます」 早速俺はイルカさんが用意してくれたお弁当にかぶりついた。 とても久しぶりにまともな飯を食べた気がした。 気がした、というか本当に久しぶりだった。 俺は小さいころから任務に就いていたせいか、ほっておくと任務中でもないのに、兵糧丸と水で食事を終わらせる癖がある。 なので、よくイルカさんに見つかって怒られていた。 きっと今回もそんな俺の食事事情を心配したイルカさんが弁当を持ってきてくれたのだと思う。 「これ、おいしいです。イルカさん」 「それは良かったです。でも、カカシさん少し痩せたんじゃないんですか? しっかり、ご飯食べてますか?」 「大丈夫ですよ。しっかり食べていますから」 俺は、快心の笑みを浮かべて、イルカさんを心配させないようにそっと嘘をつく、真実を少し混ぜながら。 「毎日鍛錬してるんで、脂肪が落ちて、筋肉が引き締まってそう見えるだけですよ」 ほらねぇ。嘘じゃない、三食はしっかり食べてるし(兵糧丸だけど)、鍛錬すれば身が引き締まって細くなるからね。 なんて思いながら弁当を咀嚼していく。 そんな俺にイルカさんは疑いの眼差しを向け、俺の些細な変化も見逃さないとガン見してきた。 「本当ですね。嘘じゃないんですよね。信じていいんですよね」 そんなイルカさんの心遣いが嬉しくって、ただでさえ綻んでいた俺の顔は、更に締まりのない緩みまくった顔をした。 そんな俺を見て彼は、「はぁー」と盛大に溜息をついて 「しょうがないですね。そういう事にしといてあげます」 と今回は妥協してくれたみたいだった。 やっぱりイルカさんにはかなわない。 こうやって、騙されてくれる。 俺の嘘なんてきっと彼にはばればれなんだろうけど。 やさしいイルカさんは俺を甘やかす。 「好きですよ。イルカ」 そんな彼を見ると俺はいつもそう言わずにはいられない。 「……。ば、バカなこと言ってないで、ちゃんと食べてくださいよ」 彼は、顔中を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。 そんな風に照れてしまう彼も可愛い。 「はーい」 返事だけは、よい子の返事をしておいて、俺はニヤニヤしながら残りをたいらげた。 「ごちそうさまでした」 「お粗末さまでした」 少しの沈黙の後、お互いに顔を見合せて、どちらからともなく、クスクスと笑いだした。 「あーっ。なんか久しぶりにゆっくりとイルカさんと食べたぁ。って気がしますね〜」 「そうですね。こんなにゆっくりとしてカカシさんと食べたのなんていつ以来でしょうね」 そんなことを話しながら食休みを少し取った。 本当に久しぶりにイルカさんとゆっくりと話すことが出来て、新術がなかなかうまくいかずに少し腐っていた俺は、いつの間にか心が晴れ晴れとして、軽くなっていることに気づいた。 また、思考回路がうまく、回らなかったさっきとはくらべるもなく、すっきりとした頭には次から次へと新しい考えが湧き水のように浮かんでくるような気がした。 「ゆっくり休みましたし続きを始めますか」 わざとらしくそう声をかけて、気持ちをすぐに切り換える。 「イルカさん、本当に危険なのでここから見学しててください」 「はい。カカシさん。ところで、どのような術を考えているかお聞きしてもよろしいですか?」 瞬時にイルカさんは中忍の顔になり俺に聞いてきた。 「一応、写輪眼を使った時空間忍術を考えています」 俺も上忍の顔になり、目指す術の危険性をイルカさんに教えた。 ある程度知っていれば、何かあったら、中忍であるイルカさんなら、ある程度は機転を利かせて防ぐなり、回避するなりしてくれるはず、それでも間に合わない時には俺が…。 「普通の時空間忍術とは、異なる方法での発動なので、何が起こるかわかりません。分かっているとは思いますが見てる時は、くれぐれも注意を怠らないでくださいね。本当に危険なんで…。俺がイルカも絶対に守る! って断言できればいいんですけどねぇ。情けないことにそうも言いきれなくて・・・」 俺は後頭部をガシガシとかきながら照れ隠しをした。 俺の言葉を聞くなりイルカさんは顔を赤くし 「…バカ…」 と、ぼそりと言って、俯いてしまった。 俺は、その場を離れるのがなごり惜しかったけど、イルカさんの安全圏を確保し、なおかつ俺がすぐさま対処できる距離まで離れた。 俺はイルカさんが見守る中、新術開発の為に、写輪眼をあらわにした。 |