鳥の囀り、木々の唄。
 聞こえてくるのは、森の息吹。

 平和な音に促されるように、俺の意識はゆっくりと覚醒してゆく。


 ……なんで俺はこんな所に?

 確か、俺は―――。


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 九尾の襲来より数十年続いたかりそめの平和は、かつての同胞で三忍の一人とうたわれた大蛇丸の手によって簡単に終わりをむかえた。

 三代目を始めとして多くの同胞の命が大蛇丸の手によって摘み取られた。

 後にこれを『木ノ葉崩』と呼ぶ。

 崩壊を免れたが、木ノ葉は早急な立て直しを余儀なくされた。
 そこで早速、新たな火影をたてることになり、五代目の火影に三忍の一人、綱手を迎えることでやっとその元に復興へと歩み始めた。
 復興には資金が沢山必要な為、上忍、中忍、下忍を問わずに里が一丸となって資金を捻出する為に馬車馬の如くありとあらゆる任務をこなしていた。

 それから、一年ぐらいたつと、里にもゆとりが戻り任務も平常時に戻り、アカデミーの開校時間も少しずつ延びていった。
 そんな頃だった。

 俺は、木ノ葉崩のさい大蛇丸に手も足も出ないばかりか彼を刺し違えて止めることさえ出来ない非力さ、さらに追い討ちをかけるように襲撃してきたイタチに軽くあしらわれその写輪眼に翻弄され無様に倒れた自分への不甲斐無さに、もう一度己を鍛えなおそうと、また更に強くなろうと思った。
 毎日の鍛錬の他に最近は、時間にゆとりが出来たので新術の開発にも着手するようになった。
 イタチの万華鏡写輪眼に対抗できるほどの技を…。

 今日も里の近くの森の中で、日々の鍛錬後に、新術の開発をしていた。
 新たな術の開発にはかなり手こずっていた、この目(写輪眼)を使った新術を、あーでもない。こーでもない。と試行錯誤していたのだった。
 その試行錯誤の過程でたまたま、写輪眼(このめ)は時空間系の忍術が適しているのを発見した。
 時空間忍術にも、危険なものから、そうでないものまでピンからキリまで有ったので、とりあえず他人を巻き込まないように、でも里から離れすぎない、人があまりこない森を選んで、開発に没頭していた。

 そんな俺を心配してなのか、イルカさんが遣ってきた。
 まだ、彼がここへ辿り着くのはもう少しかかりそうだった。



 彼の名前は、 うみの イルカ  中忍。
 アカデミーの先生で、受付も兼任している
 先の戦いの煽りを受けて、つい最近までは里外任務もこなしていた。
そんなイルカさんと知り合ったのは、俺が上忍師として初めて、下忍選抜試験に合格者を出した時だった。


 試験が終わった昼過ぎ、合格したことを報告しに行くという子供達の行動に興味が湧いてたまたま後を着いて行ったら、アカデミーの入り口付近でうろうろしている男がいた。
 その男を認めると、子供達は我先にと走り出してその男の周りにまとわりついた。
 そして、子供たちから合格したと聞いて、まるで自分のことのように、喜ぶ彼を見ていたら、なぜか羨ましく思った。
 どうしてかなんてその時は分らなかった。
 ただ、彼の笑顔が眩しいだけだと俺は、そう思いたかった。

 ふと、俺に気づいた彼が固まるとそれに気づいた子供の一人、ナルトが、俺を指さして
「イルカ先生、コレ カカシ先生だってばよ」
と俺を彼に紹介した。
 次の瞬間には、ナルトの頭にはゴインっとすごい音をたてたゲンコツが落とされていた。
「バカ!! 上忍の先生に向かってコレは、ないだろう。しかも指を指さない」
 ナルトは眼に涙を溜めて、「痛いってばよ」とブツブツと言っていた。
 そんな親子漫才みたいなことをしていた彼は慌てて
「はじめまして、はたけ上忍。オレ、嫌、私はアカデミーでこいつ等の担任をしておりました、うみの イルカと言います。これから、こいつらのことよろしくお願いします」
と、律儀に腰を90度に曲げて挨拶をしてきた。
 あまりのことにびっくりして、写輪眼のカカシともあろう俺が、呆けてうっかり見入っていた。
「…はたけ上忍…」
 反応を返さない俺に恐る恐る彼はもう一度声をかけてきた。

 ふと気付くと彼は、初対面なのに、俺の警戒をいともたやすく潜りぬけてするりと、俺の懐、一番柔らかく、脆い心の奥に入ってきていた。
 まるで、それが当たり前のように、無くしていた欠けらがはまるように……。
 もう二度と大切な人はつくらないと、あの時そう誓ったのに、俺は彼に心を簡単に許してしまっている自分に驚いて、そしてそれがおかしくて、我慢が出来なくて、彼らの行動を笑ったわけでは無いのだけれど、傍から見ればそう見えてしまうだろうけど…俺は我慢出来ずに、目に涙を溜めるほど笑ったのだった。
「……ック、クク、…だ、ダメ。お、おかしー、アハハハハ」
 俺が笑っている間、子供たちは気味悪いモノを見るように皆一様にひきつった顔をしていた。彼はどうしたらいいのか分からないと困った顔をして途方に暮れていた。
「すみませんでした。えーっと、イルカ先生…。あの俺のことは『カカシ』って呼んでください。それにいつもの様に砕けた話し方で話してくださいねぇ」
 俺は彼になぜか『はたけ上忍』なんて、呼んで欲しくって謝りついでに、俺は彼に無理やり、でも妥協して『カカシ先生』と呼ばせることに成功した。
 俺はその手を彼、イルカ先生に差し出して握手を求めた。
 俺の行動に吃驚した顔をしたけど、ハッとして慌てて服で己が手を拭いて俺の求めに応じてくれた。
「イルカ先生、こちらこそこれからもよろしくねぇ」
 イルカ先生は、感極まってしまったのか、目をウルウルさせて、俺の手にもう片方の手も一緒にしっかり握って頷くたんびに頭を大げさにブンブンと振っていた。
 そんなオーバーリアクションなイルカ先生に呆れながらも何故か俺は、彼の手を握ることでとても懐かしさを感じていた。



 その後、俺はイルカ先生に行き遇うと何故か、七班の事をだしにして、彼を食事に誘っていた。
 段々と打ち解けていった俺たちは、2人の時間さえ合えば、飲みに行くような仲になっていた。
 まるで昔からお互いを知っているような幼馴染のような友達関係を俺はイルカ先生と築いているつもりだった。
 俺からイルカ先生の話を聞いていたアスマや、紅は最初こそは俺をからかって遊んでいた。
 しかし、俺が本気でイルカ先生の事を友達だと言っていると分るやいやな、切々と人を好きになると…。と俺に説いて聞かせ始めた。
 俺は恋なんてしたことが無かったから自分のこの感情が何なのか最初は分かっていなかったたけど、2人に言われて、自分の心と向き合ってみて、そして俺は自分の恋心を自覚した。

 きっと俺は……
 初めて彼に会ったとき
 一目惚れしていて
 それが恋だと気付いたら
 彼をあきらめないといけなくてでも
 あきらめきれなくて

 この恋心に気付いてから俺は、葛藤し続け、悩みに悩んで…… 俺はこの恋に殉じようとそう決めた。

 だから、俺は
 なりふり構わずに
 イルカ先生を
 口説いて回った

 俺は必死だった。
 何せ、俺にとっては一生に一度の恋なのだから。
 ……それが功を奏したのか、彼と知り合ってから半年後ぐらいには
 俺はイルカ先生の恋人で
 イルカ先生は俺の恋人になっていた。
 俺たちがそんな関係になった頃には、それぞれの敬称は、「先生」から「さん」に変わっていた。
 ケンカやすれ違い、誤解などもあったけど、気づけば俺たちは里公認のバカップルになっていた。








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