頑張ります! 思えば、帰宅した時からカカシの様子はどこかおかしかった。 台所で夕飯の準備をしていた時だった。 玄関から聞こえてきた物音に気付いたイルカは、その顔をぱぁと綻ばせた。 いつもの帰宅を告げる挨拶はないが、きっとカカシだ。 急いで濡れた手をタオルで拭く。そうして玄関先をひょいと覗くと、やはりというか、そこにはカカシがいた。 「おかえりなさい」 笑みを浮かべてそう告げる。 「ん、ただいま」 イルカのその言葉に、カカシが履物を脱ぎながら小さく笑みを浮かべてそう返してくる。それを見たイルカは顔に浮かべていた笑みを消し、小さく首を傾げた。 その声と笑みがどこか元気がないような気がしたのだ。 履物を脱ぎ終えて近付いてくるカカシへと心配そうな表情を向ける。 「どこか具合でも悪いんですか?」 「ううん。どうして?」 イルカの前で足を止めたカカシが、素顔を晒しながら逆に訊ねてくる。 その顔を見てイルカは少し困ってしまった。どこか具合が悪そうだと思ったのだが、素顔を見ると顔色は少しも悪くない。それどころか、いつもより血色が良いような気さえする。 「・・・いえ、何でもなければいいんです」 気のせいだったのだろうと笑みを浮かべてそう告げるイルカの頬に、ふと笑みを浮かべたカカシの手が伸びてくる。 「オレは至って元気ですよ」 イルカの頬を擽りながらそう告げたカカシが、イルカの脇をスルリと抜けて洗面所へと向かう。 振り返り、その少し丸い背を見送るイルカは、またもや小さく首を傾げていた。 (・・・あれ?) キスが無かった。 二人の間で欠かされた事の無い、ただいまのキスが。 スキンシップが大好きな恋人は、何かとイルカに触れたがる。 先ほどのように頬を撫でたり、今日は無かったが、ただいまと言ってキスしてきたり。 カカシの癖になってしまっているのではないかと思う程に、毎日のように繰り返されているそれらの行為。 頬を擽られた時、てっきりキスされるのだろうと思っていただけに拍子抜けしてしまった。 「・・・っ」 不意にイルカの頬がかぁと赤く染まる。慌ててブンブンと頭を振る。 どうしてキスしてくれなかったんだろう、なんて。 もの凄く恥ずかしい事を考えてしまった自分に、イルカは心の中で思う存分突っ込みを入れていた。 ひとしきり突っ込みを入れた所で、はぁと疲れた溜息を吐く。 「・・・ご飯作ろう・・・」 誰も居ない廊下で力な くそう呟くと、イルカはまだ熱い頬を擦りながら台所へと逃げるように戻った。 今日の秋刀魚はいつも以上に綺麗に焼けたとイルカは思う。 思うのだけれど。 口の中に入れたご飯を咀嚼しながら、卓袱台を挟んで目の前に座るカカシをチラと伺う。 そのカカシはイルカの視線に気付いているのかいないのか、綺麗な箸捌きで秋刀魚の身を解している。 普通だと言われれば普通だ。だが、口数が少ない気がする。 イルカが話し掛ければ笑みを浮かべて答えてくれるが、カカシからはあまり話し掛けてくれない。 カカシが大好きな秋刀魚を出した日は、にこにこと笑って何度も美味しいですと言ってくれるのに。 (美味しくないのかな・・・) それにだ。 いつもならたくさん話し掛けてくれるのに、それもない。 今日のアカデミーはどうでした?とか、演習では何をしてるんですか?とか。 五歳で下忍になり、アカデミーでの事を殆ど経験していないらしいカカシは、アカデミーの話をよく聞きたがる。 深い蒼色の瞳を細め、それはそれは嬉しそうにイルカの他愛ない話を聞いてくれるのだ。 小さく首を傾げてカカシを見つめる。 いつものカカシなら、イルカのこんな視線にはすぐに気付くはずなのに、何か気になる事でもあるのか、心ここにあらずといった風で気付いてくれない。 (どうしたんだろう・・・) 何か悩み事だろうか。 それとも、やはり美味しくないとか。 「あの・・・」 そっと声を掛けてみる。 「ん?」 箸を止めたカカシが顔を上げ、小さく首を傾げてみせる。 「ご飯、美味しいですか?」 「うん。美味しいですよ」 イルカの問いに、にこと笑みを浮かべたカカシがそう答える。 いろいろと訊ねたい事があったはずなのに、その笑みを見たイルカは続く言葉を失ってしまった。 ほんの少しだが、カカシのその笑みがイルカを拒絶しているように感じたのだ。 「・・・そう、ですか」 辛うじて笑みを浮かべてそう告げたが、イルカは泣きそうだった。 何か悩みがあるのだ。 カカシには何か悩み事があるのだろうに、イルカの事を大切にしてくれているカカシの事だ。イルカに心配を掛けまいとして、何でもないフリをしてくれている。 カカシの優しさはイルカの大好きな所だけれど、その優しさが今は少しだけ悲しい。 何か悩み事があるのなら、相談してくれたらいいのに。 恋人なのだから、相談して欲しい。一人で悩まないで欲しい。 里の中枢を担うほどの忍であるカカシの悩み ともなると、イルカには聞かせられない事も、相談出来ない事も多いのだろうけれど、それでも。 『少し悩み事があるんです』 たった一言でいい。それだけでも、言えばきっと少しは楽になるのに。 手に持った茶碗から、ご飯を一口食べる。 イルカは、僅かに涙の味がするそれを咀嚼しながら、恋人に相談すらしてもらえない自分が悲しく思えた。 もしかすると、任務疲れもあるのかもしれない。 そう思ったイルカは、カカシに先に風呂を使ってもらい、入れ替わるようにイルカも風呂に入った。翌日の準備を済ませて寝室へと向かう。 風呂に入る前、カカシには先に寝てて下さいと言っておいたから、イルカは寝室へと続く襖をそっと静かに開けた。 すると、やはり疲れていたのかカカシは先に眠ったらしく、室内は真っ暗だった。 起こさないようゆっくりと布団を捲り、カカシが開けてくれていたスペースに潜り込む。 背中を向けて眠っているカカシの側に寄り添い、額をカカシの肩に少しだけコツンと当てる。そうして、イルカも眠ろうと目を閉じた。 すると。 (・・・あれ?) 眠っているのだとばかり思っていたカカシが、むくりと起き上がった。 「・・・少し出掛けて来ます」 「え?」 小さくそう言ったカカシが、ベッドから降りようとする。 「えっ、ちょっと待って下さいっ」 それを見てカカシが言った意味をようやく理解したイルカは、慌ててカカシの着ていた浴衣の端を掴んだ。 イルカに浴衣を捉まれ、カカシの動きが止まる。 だが、イルカが手を離したらすぐにでも出て行こうという雰囲気がカカシにはあって、イルカは絶対に離すもんかと浴衣を握る手に力を込めた。 カカシがこんな夜更けに出て行こうとするなんて事は初めてだ。イルカは戸惑いながらも、ちゃんと話をしなきゃと上体を起こした。 「出掛けるって、こんな夜更けにどこに・・・?」 ベッドの上に正座してカカシへと訊ねる。そうしてベッドの端に腰掛けるカカシの顔を覗き込むが、顔を見せないように逸らされてしまった。 「・・・離して下さい」 「・・・っ」 おまけにそんな事まで言われて、今日イルカの中で積もりに積もっていた不安が一気に大きくなる。 今日、ただいまのキスをしてくれなかった。 いつもはたくさん話をするのに、碌に話もしていない。 何か悩み事がある様子なのに、それを言ってくれない。 おまけに、イルカと共に寝るのを避けるように出て行こうとする。 イルカの中でどんどん膨 らんでいく不安が良からぬ事を囁き、イルカの眉根がきゅっと寄った。 「もしかして、俺の事が・・・」 こちらを見ようとしないカカシへ小さくそう告げるイルカのその瞳に、じわりと涙が浮かび始める。 キスや共に寝る事を避けられているのは、もしかしたら嫌われてしまったからなのだろうか。 ずっと何かに悩んでいる風だったのは、心配掛けまいとしてくれていたのではなく、別れをどうやって切り出そうかと悩んでいたのかもしれない。 何か嫌われるような事をしてしまったのだろうか。 そこまで考えて、ふと気付いた。 いつだってイルカは与えられるばかりで、カカシに何も与えていない事に。 スキンシップが多いカカシに甘えてばかりで、イルカの方からは何もしていない。 悩み事だって、いつもイルカが相談するばかりで、カカシからは聞いた事が無い。 (甘えてた・・・) 優しくて年上の恋人に、イルカはベッタリと甘えていたのだ。 与えられるばかりで何も返していない事に気付き、今更ながらに後悔の波が襲ってくる。 こんな恋人、カカシが嫌って当然だ。捨てられて当然だ。 だけど。 イルカの瞳から堪えきれない涙が溢れ出す。 嫌だ。別れたくない。 カカシの事が好きなのだと大きな声でそう言い募りたい。けれど、それを言ってしまったらカカシの負担になる。 こんな時に泣くのだって反則だ。そう思うのに、一度溢れ出した涙は止まる事を知らなかった。 イルカから顔を逸らしているカカシに知られてはいけない。そう思うのに、イルカの喉がひっくと僅かにしゃくり上げてしまう。 その音で気付いたのだろう。カカシがバッと振り向こうとするのを見たイルカは、慌てて浴衣の袖で涙に濡れた顔を覆い隠した。 「・・・イルカ先生っ?」 「・・・おねが・・・、嫌いにならないで・・・っ」 言っては駄目だと思うのに、懇願する言葉が口から勝手に出てくる。 みっともなく大声で泣くのだけは絶対に避けたい。唇をきつく噛み、涙を堪えるイルカの身体が震える。 そんなイルカの姿を見ているのだろうに、カカシの手がイルカの身体へと伸ばされる気配はなかった。 やはり嫌われているのだ。 イルカの心を絶望が覆い始める。 (嫌だ・・・っ、嫌だ・・・!) 失いたくない。別れたくない。 掴んだままのカカシの浴衣をきつく握り、心の中でそう叫びながらイルカがぎゅっと目を閉じた時だった。 「・・・不安にさせてゴメンね・・・?抱き締めてあげたいけど、今のオレはイルカ先生に触る事が出来ないんです・・・」カカシのそんな悲痛な声が聞こえてきて、イルカはそっと顔を上げた。 涙でぐちゃぐちゃになっているのだろう。イルカの顔を見てきつく眉根を寄せたカカシの手がイルカの頬に伸びてくる。 だが、涙を拭ってくれるのだと思われたその手は、イルカに触れる前に引き戻されてしまった。 触れたいのに触れられない。 そんな仕草を見せるカカシに、イルカは小さく首を傾げた。 それを見たカカシがふと苦笑する。 「ゴメンね。ちゃんと説明しておけば良かったんだけど・・・。まさかこんなに効果が出るなんて思ってなくて・・・」 「こう、か・・・?」 効果、とは何の事だろうか。 拭って貰えなかった涙を自らの浴衣の袖で拭い、イルカが見つめると、カカシは「あー・・・」と銀髪を掻きながら、少し言い辛そうに視線を泳がせた。 「えっとね。オレにあまり薬が効かないのはイルカ先生も知ってるでしょ?」 その言葉にイルカはコクンと頷いた。 カカシは暗部に所属していた為、あらゆる毒薬にある程度耐性がある。薬もあまり効かない。 その事はイルカも知っているから、アカデミーから風邪をもらって来ないよう気を付けたり、イルカが作る事が多い食事も食中毒などには細心の注意を払うようにしている。 「今日の任務報告をした後、五代目から明日は休みにしてやるからって、オレみたいに薬に耐性がある忍を相手にする場合を想定した新薬を試される事になっちゃって」 「え・・・っ?じゃあ、どこか具合が・・・っ」 カカシの様子がおかしかったのは、その薬のせいで具合が悪かったからなのだろうか。 そう思ったイルカが心配そうな表情を浮かべて僅かに身を乗り出すと、カカシは違う違うというようにヒラヒラと手を振った。 「あぁ、危険な物じゃないんです。具合が悪くなるとかそういうものじゃなくて・・・。飲んだ時はそんなに効果は出なかったんですけど、帰ってきてからどんどん酷くなってきてしまって。その・・・」 カカシの視線がさらに泳ぐ。 殊更言い辛そうな様子を見せるカカシに、イルカの首がさらに傾ぐ。 「その新薬っていうのが、ね・・・?媚薬、なんです」 「・・・っ」 媚薬と聞いて、イルカの体温が一気に上がった。顔も熱くなったから、きっと顔中が真っ赤になってしまっているに違いない。 今日の カカシの様子が変だったのは媚薬のせいだと知りホッとしたが、同時に媚薬の効果が現れていると言うカカシにイルカの胸がドキドキしてくる。 真っ赤になって俯いたイルカの耳に、カカシがふと小さく笑う声が聞こえてくる。 「だから、ちょっと出掛けてきていいですか?イルカ先生の側に居たら襲い掛かっちゃいそうなんです。外で頭を冷やして来ますから。ね?」 その言葉と同時に、掴んでいるカカシの浴衣が少し引っ張られる。 だが、イルカは掴んだその手を離さなかった。 「・・・イルカ先生?」 カカシが俯くイルカの顔を覗き込んでくる。 「・・・っていい、です」 「え?」 俯いたまま小さく告げたイルカの言葉が聞こえなかったのか、カカシが聞き返してくる。 真っ赤なままの顔をゆっくりと上げると、イルカはカカシの蒼い瞳を見つめながら、緊張から僅かに震えるその唇を開いた。 「襲い掛かっていい、です」 イルカがそう告げた途端、カカシの瞳が大きく見開かれた。 はしたない事を言っているという自覚は、嫌という程にある。 けれど、あのカカシが襲い掛かってしまいそうだと口に出して言った。普段、イルカには弱音なんて聞かせた事がないカカシが。 五代目の試薬がそれだけ強い薬だという事だ。 そんな弱音を吐く程の強い媚薬にカカシが侵されていると知った今、それを鎮める手伝いをしたいとイルカは強く思った。 イルカの方からこういう誘いをした事はこれまで一度もない。 誘うなんて恥ずかしいという事もあったけれど、それ以前に、イルカが少しでもしたいなと思うと、カカシはどうしてかすぐに気付いてそれとなく誘いを掛けてくれるから、誘う必要が無かったという事もある。 そんな部分でも、イルカはカカシに甘えているのだ。 だから。 (甘えてばっかりじゃ駄目だ!) カカシが辛いだろう今、イルカが頑張らなくては。 正座したままの膝の上に置いた拳をきつく握り締めると、イルカは一つ深呼吸した。 もの凄く恥ずかしいけれど、恥ずかしいなんて言っていられない。今だって、カカシは媚薬のせいで辛い思いをしているのだ。 驚いた表情で見つめてくるカカシをしっかりと見つめ返す。 「媚薬なら抜けばいいんですよね?・・・今も、本当はかなり辛いんでしょう?だったら、我慢しなくていいです。俺、頑張りますからっ」 勢い込んで一気にそう告げると、イルカのその言葉にも驚いたのか固まっていたカカシがしばらくして小さく苦笑した。 「・・・イル カ先生の気持ちは凄く嬉しいですよ。でもね、今のオレはあなたに優しく出来る保障がない。酷くしそうで怖いんです。それに・・・」 もうイルカに隠す必要が無くなったからだろう。そう告げるカカシの蒼い瞳が熱を孕みだす。眉根がきつく寄り、辛そうな表情が浮かぶ。 それを見たイルカは、カカシの言葉の途中でベッドの上から急いで降りた。ベッドに腰掛けているカカシの前に膝を付き、きゅっと眉根を寄せてカカシを見上げる。 「でもっ、もの凄く辛そうじゃないですか!俺、カカシさんの為に何かしたいです!」 そう言ってカカシの膝の上に手を置くと、少し触られるだけでも辛いのだろう。カカシの顔が苦悶に歪んだ。 カカシのそんな表情は初めて見る。 いつだってカカシは穏やかな表情でイルカの側に居たから。 カカシは優しい。凄く辛いだろうに酷くしたくないと、その強い精神力でイルカに触れる事を自分に律している。 その強さや優しさは凄く好きだし嬉しい。でも今は。 そんな事を言っている場合じゃないんじゃないかとイルカは思う。 けれど、自分に厳しいカカシの事だ。一度イルカに触れないと決めたなら、それを変える事はきっとしない。 だから。 スッと視線を落としたイルカは、手を置いているカカシの膝の奥へとその視線を向けた。そこは、浴衣の上からでもひと目で高ぶりが分かるくらいになっている。 カカシが触ってくれないのなら、イルカから触らなければ。 (俺が頑張らなきゃ!) イルカは心の中でそう決意すると、カカシの浴衣の裾を急いで割り始めた。 「ちょっと、イルカ先生ッ!」 カカシが慌てて立ち上がろうとする。 それに気付いたイルカは逃げられないようにと、僅かに乱した浴衣の裾の合間から中へとその手を伸ばした。 「・・・ッ」 カカシが息を詰める。僅かに上がっていた腰がベッドの上へと戻る。 下着越しに触れたカカシの欲はとても熱く、痛みを感じているのではないかと思えるほどに大きく張り詰めていた。それに、下着がしっとりと濡れてもいる。 (うわ・・・) イルカに酷い事をしたくないと、こんな状態になるまで我慢してくれていたカカシの優しさが嬉しい。イルカの口元が僅かに緩む。 だけど、少しだけ切ない。 かなり辛かったのだろうに、イルカにそれを告げずにいたカカシの優しさが。 やっぱり我慢しなくていいです。 イルカは切なく眉尻を下げ、そう告げようと顔を上げた。だが、告げられなかった。 (え・・・?) 瞳に映 り込んできたその光景に目を見開く。 片手で口元を押さえたカカシが、何かを耐えるようにきつく眉根を寄せてそこにいる。 上気した頬。僅かに覗く額にはうっすらと汗が滲み、銀髪が張り付いている。 イルカを見下ろしてくるその蒼い瞳は、視線を絡めると実際に熱さを感じてしまいそうな程に熱を孕んでいた。 壮絶な色気を漂わせるカカシのその姿を、イルカは見慣れていると言えば見慣れている。 けれど、カカシがそんな表情を見せるのはイルカの上で荒い息を吐きながら、絶頂を迎えようとしている時だけだ。 少し触っただけでこんな顔を見せるなんて事は決してない。 「・・・もしかして、もうイきそうなんですか・・・?」 「・・・ッ」 イルカの小さなその問いに、カカシが視線を逸らす。その表情はどこか気恥ずかしそうで、それを見たイルカは驚いた。 恥ずかしがるカカシなんて初めて見た。 こういう状況でのカカシはいつだって余裕たっぷりで、イルカばかりが羞恥に身を焦がす事が多いのに。 それだけ今のカカシに余裕がないという事なのだろう。 我慢する辛さは同じ男だからイルカにも良く分かる。 早くイかせてあげたい。そう思ったイルカは急いで膝を進め、カカシに身を寄せた。下着の中からカカシの欲を引きずり出す。 「俺が手伝いますから。出して下さい」 「イル・・・ッ、っふ・・・ッ」 いつになく大胆なイルカの行動に驚いているのだろう。目を見張って見下ろしてくるカカシへとそう告げながら、イルカは掌に握り込んだカカシの欲を扱き始めた。途端にきつく眉根を寄せたカカシが息を荒げる。 (どうやってたっけ・・・) イルカはこういう事にはかなり疎い。いつもカカシにされるばかりで、イルカがした事は殆ど無い。 だから、カカシがイルカにいつもしてくれる愛撫。それを思い出しながら、イルカはカカシの手管をなぞった。 親指の腹で鈴口を押し潰す。カリに指が引っかかるように扱く。 そうやって扱く手は止めずに、イルカはカカシの欲を隠している浴衣をゆっくりと捲った。 すると、そこから現れたカカシの雄は、先端からトロトロと蜜を溢れ出させながら快楽に震えていた。 (すご、い・・・) イルカがカカシのここをじっくりと見るのは初めてだった。 いつもイルカは、カカシの手によって堕とされる快楽の海に翻弄されているばかりだったから。 とても大きいソレをいつも受け入れているのだと思うと、恥ずかしさを感じると同時に、腰の奥が疼き始めてしまう。 カカシの痴態に煽られたのか自らの欲がゆるりと反応し出すのを感じたイルカは、その顔を僅かに染めた。 もぞりと腰を動かした所で止まりそうになっていた手に気付き、慌ててカカシの熱欲への愛撫に気持ちを集中させる。 イルカのこんな拙い手管でも、カカシは気持ち良くなってくれているだろうか。 恐る恐るカカシを伺ってみると、そのカカシは僅かに俯かせた顔から汗を滴らせ、息を荒げながら随分と良さそうな表情を浮かべていた。それを見てホッとする。 淫猥な表情を見せるカカシをどきどきしながら見上げていると、イルカの視線に気づいたカカシが恥ずかしそうに顔を逸らした。 イルカは素面に近いが、カカシはすっかり快楽に堕ちている。一人快楽に耽っている様をイルカに見られる事に、カカシは恥ずかしさを感じてしまうようだった。 それを見たイルカは、こんな時なのに口元が緩みそうになってしまった。 笑ったりしたら失礼だと、少し緩んだ口元をカカシから隠すように手元に視線を戻す。 (ちょっと楽しい・・・) いつもは余裕たっぷりなカカシが見せるその表情が、イルカには嬉しかった。 イルカが手を動かすたび、暗い寝室内にくちゅくちゅと水音が鳴り響く。 その合間に頭上から聞こえてくるカカシの荒い息遣い。 それに、イルカの手の中にあるカカシの熱欲の淫猥な様。 それらに煽られ、イルカの頭がぼんやりとし始める。 記憶にあるカカシの手管をなぞっていたイルカは、自分でも気付かぬうちに目の前にあるそれにそっと顔を寄せていた。 カカシの止め処なく蜜が溢れ出す先端。 それを、ぼうっとした頭のまま、あむと口に含む。 「ッ!それはダメ・・・ッ!」 途端、叫ぶようなカカシの声が頭上から聞こえてきて、イルカはハッとした。 カカシはいつもこうやってイルカのモノを舐めてくれるのだが、いけない事だっただろうか。 イルカだってしたい。させて欲しい。 懇願するように先端を咥えたままカカシを見上げてみると、それを見て大きく目を見開いたカカシがきつく眉根を寄せた。 「く・・・ぅ・・・ッ!」 奥歯をギリと鳴らしたカカシの身体がビクンと大きく震える。と同時に、イルカの口の中でカカシの雄がさらに大きく膨らみ、先端が弾けた。 「んん・・・ッ」 舌先にどくどくと吐き出される 精。初めて口にするそれは、苦いはずなのにどこか甘さを感じた。 その事を不思に思っていると、 「イルカ先生、吐き出してッ!」 そう言ったカカシの手が、痛いほどに肩を捉んできた。 (ぅわ・・・!) イルカの口の中からカカシの雄が引き抜かれる。だが、僅かに開かれたままのイルカの口の中にはもう、精はどこにもなかった。 驚いて飲み込んでしまった。 「・・・もしかして、飲んじゃった・・・?」 まだ荒い息を吐いているカカシのその問いに、イルカはおずおずと顔を上げた。 何故か心配そうな表情をしてるカカシに小さく頷いて見せると、カカシはがくりとうな垂れてしまった。 カカシはいつも飲んでくれるのだが、イルカが飲むのは不味かっただろうか。 「あ、あのっ、ごめんなさいっ。俺、びっくりして・・・」 俯いているカカシへとそう告げている途中でイルカの両脇にカカシの手が掛けられた。ふわりと抱き上げられ、カカシの身体を跨ぐように膝の上に乗せられる。 そうして、ぎゅっときつく抱き締められ、ようやく味わう事が出来たカカシの体温にイルカは泣きそうになってしまった。 「・・・謝るのはオレの方ですよ。ゴメンね・・・?我慢できなかった・・・」 そう言ったカカシが、少し高い位置にいるイルカを見上げてくる。 我慢できなかったというカカシのその言葉が嬉しい。イルカの頬が緩む。 カカシに比べると拙くて上手く出来たとは到底言えなかったけれど、また頑張ろうと思えた。それに、ようやく与えられたカカシの温もりがとても嬉しい。 でも、いいのだろうか。 触れられないとカカシは言っていたのに。 「あの・・・、もういいんですか?俺に触っても・・・」 「・・・それなんですが。イルカ先生、オレの飲んじゃったでしょ?」 困ったように眉尻を下げたカカシが、そう言って見上げてくる。伸ばした指でイルカの唇を愛おしそうにそっと撫でる。 「今のオレの体液には媚薬が含まれているんです。だから、今日はキスも我慢してたんですけど・・・。もう飲んじゃったからね。少しだけでしょうけど、イルカ先生にも同じ症状が現れると思います」 「あ・・・」 苦笑したカカシにそう説明され、イルカはようやくその事に気付いた。 あの時カカシが駄目だと言ったのは、舐めて欲しくなかったからではなく、イルカを媚薬に侵させたくなかったからなのだ。 「ごめんなさい・・・」 その事に気付けずカカシの心遣いを無駄にしてしまったとしゅんと 落ち込んでいると、そんなイルカの頬にカカシの手がそっと添えられた。 「・・・ううん。オレの方こそ、あなたをこんな事に巻き込んでしまってゴメンね・・・?」 見上げてくるカカシのその顔は、イルカを巻き込んでしまったのが心苦しいと如実に伝えてきた。慌てて首を振る。 「それは、俺の不注意だったんですからっ、気にしないで下さい」 すると、カカシはふわりと笑みを浮かべて「ありがと」と礼を言ってくれた。ぎゅっと抱きつかれ、イルカもカカシの背に手を回す。 「・・・でも、イルカ先生がお口でしてくれて凄く嬉しかった。初めてだったね」 そんな事を言われて、自分のした事が今更ながらに恥ずかしくなったイルカは、顔を真っ赤に染めてしまった。 (俺・・・っ) カカシの雄を少しだったけれど口に含んだ。凄く大きくて、先端の小さな口からはたくさんの蜜が溢れていた。媚薬のせいだったのだろう。その蜜はとても甘くて美味しかった。 「ぁ・・・っ」 先ほどまでの行為を思い浮かべたイルカの身体の奥が疼きだす。 腰ももぞもぞと動いてしまい、気付かれただろうかとカカシをそっと見下ろしてみると、熱い眼差しが返ってきた。 「・・・イルカ先生」 「・・・はい」 「ホントはね、こんな媚薬に侵された身体であなたを抱きたくはありません」 カカシのその言葉に少し悲しくなるが、媚薬に侵された状態でイルカを抱きたくないというカカシの気持ちは分からないではない。 イルカとの営みを大切にしてくれているカカシの事だ。きっと、薬によって強制的にもたらされる劣情をイルカに向けたくないのだろう。 それにカカシはいつも、最中に貪るようなキスをたくさんしてくれる。中にたっぷりと愛情を注いでくれる。 媚薬に侵された身体ではそれも出来ないから、カカシはずっと抱くのを我慢してくれていたのだ。 「でも・・・、キスも中に注いであげることも出来ないけど、それでも。・・・あなたを抱いても、いい・・・?」 そう言ったカカシが、少し不安そうな表情でイルカを見上げてくる。 それを見たイルカは、ずっと胸に抱いていた抱いて欲しいという気持ちが一気に大きくなるのを感じた。身体の奥もジンと痺れ、徐々に胸の高鳴りが激しくなっていく。 「カカシさん・・・」 唇には出来ないから、滑らかな頬にそっと口付ける。 そうしてカカシの身体にぎゅっと抱きついたイルカは、高ぶり始めていた雄をその身体に躊躇いがちに押し付けた。 抱いてとはさすがに 恥ずかしくて言えない。だから、言葉の代わりに身体で示す。 カカシに顔を見られないように抱きついたまま、何度も腰を押し付ける。擦り付ける。 「カカシさん・・・っ、カカシさ・・・っ」 「イルカ先生・・・っ」 呻るようにイルカの名を呼んだカカシの手がイルカの浴衣を剥ぐ。鎖骨を舐められ、痛いほどに吸い付かれる。そのどこか乱暴な手付きに興奮する。 きっと媚薬が効いてきたんだ。 そう思わなければおかしい程に、イルカは高ぶってしまっていた。 その翌日、イルカはアカデミーを休まなければならなかった。 カカシでも抑えきれない程に効果覿面だった試薬は成功だったと言えるが、五代目にはむやみやたらに人体実験しないようにと上申しなければ。 朝からベッドの上の住人になってしまったイルカは、ハァと溜息を吐いた。 けれど。 カカシの愛情をいっぱい感じる事が出来て嬉しかった。 嬉しそうにイルカの世話を焼くカカシにそう言ってみると、「オレもですよ」という言葉が返ってきた。 「いっぱいイルカ先生が頑張ってくれて、凄く嬉しかった」 本当に嬉しそうに笑ったカカシに頭を撫でられながらそう告げられ、昨夜の事を思い出して恥ずかしくなったイルカは、赤くなった顔を隠すように布団の中に潜り込んだのだった。 某お茶会で、「媚薬に侵された上忍のモノを咥えるイルカ先生」というネタにものっそ萌えまして。 ちょうど10万打キリリクして下さった蟻地獄様がその場にいらしたので、キリリクに絡めて書かせて頂きました! あ、キリリクは「紳士な上忍を羞恥プレイで楽しむイルカ先生」です。 いやー。書くのがすっごく楽しかったw 蟻地獄様!10万打を踏んで下さり、ありがとうございましたvこんなんで宜しかったでしょうか?w by yuki様 談 リクをこんな素敵なお話に仕上げて下さいまして、yuki様ありがとうございます 一生モノの宝をゲットです♪ 本当に、本当にありがとうございました リクエストへ |