3333hit御礼小説 任務を終えたカカシが、明け方、里に帰還した。 三代目直々に言い渡された任務だったので、直接カカシは、三代目に完了報告をしに行く。 「御苦労じゃったな、カカシ。」 そう労わった三代目が、ふと尋ねてきた。 「そうじゃ。おぬし……ここに来る前に、家に寄っておるか?」 「いいえ。まっすぐにこちらへ。それが何か?」 「そうか。ならばカカシよ、詳細な報告は後日でよい。今日はまっすぐ帰るんじゃ。」 いぶかしむカカシに、三代目が言った。 「昨夜から、イルカの奴が熱を出して寝込んでおっての。傍にいてやれ。」 昨日の午前。 アカデミーの子どもたちのボランティア活動として、里の雪かきが実施された。 その際、高所の雪かきをしていた生徒が、足を滑らせて落下してしまった。 それをかばったイルカは、見事に雪山に突っ込んで、全身真っ白の雪人間と化した。 すぐに着替えればよかったのだろうが、動揺した生徒たちをなだめたり、その後のいろいろな処理をしていたら、そんな時間は全くなかった。 「イルカが引率していたグループの中に、木の葉丸がおっての。」 孫から一部始終を聞いた三代目は、イルカが風邪をひいているのではないかと心配して、イルカも顔なじみである側近の一人に、夜になってから様子を見に行かせた。 すると。 案の定、イルカは発熱して寝込んでいたのである。 「報告じゃと、一応、わしが持たせた薬と果物を口にしているということじゃが……回復はしておるまい。」 三代目は、ふぅとひとつ息を吐いた。 「だから、今日はもうよい。カカシ、早う戻ってイルカの傍にいてやるんじゃな。」 三代目の前を辞したカカシは、急いで帰宅した。 薬は飲んだらしいが、とにかくイルカの容体が心配である。 靴を脱ぐのももどかしく、カカシは、家に入るなり寝室へ駆け込んだ。 ベッドの上に、イルカは横たわっていた。 熱で上気した赤い顔に、苦しげな呼吸。 カカシは、引出しから乾いたタオルを取り出すと、そっと枕元に寄り、にじむ汗をふきながら言った。 「イルカ先生……苦しい?大丈夫?」 「ん……う……カカ、シ、さん……?」 微かに身じろいで、イルカが目を開けた。 熱で潤んだ瞳がカカシを捉え、かすれた声がカカシの名前を呼ぶ。 「カカシさん、お帰り、なさい……。あの、俺……」 「ただいま、イルカ先生。あと、何も言わないで。三代目から聞いて知ってます。」 微笑み返して、カカシは、そっとイルカの額に己の額を当てて熱を確認する。 「ん……まだ38度くらいはある感じですね。待ってて下さい。今、氷枕を用意してきます。そっちの方が、寝やすいでしょうから。」 「すみません……帰られたばかりで、お疲れのところを……」 「ん。気にしない。」 恐縮するイルカに、安心させるように優しいキスを落として。 カカシは台所に向かいかけて、はたと振り返った。 「そうだ。昨夜、三代目の使いが来た後に、何か口にしてますか?」 「いえ、何も……」 答えるイルカの声は、弱々しい。 「台所まで、動くのが……つらくて……」 「じゃ、何か口にした方がいいですね。薬も飲まなきゃいけませんし。」 カカシはやわらかく微笑んだ。 「氷枕と水を持ってきてから、何か適当にごはん作りますよ。」 「はい……」 頷いたイルカは、再び目を閉じた。 昨夜、薬を飲んでいるのに、こんな状態のイルカである。 薬を飲む前は、もっと辛かったであろう。 (それにねぇ……) カカシは、氷枕を支度しながら思う。 病床にある時は、誰でも不安がちになるものだ。 ひとりきりを恐れるイルカが、熱にうなされながら、どれだけ不安におののいていたかを想像して、カカシは胸が痛んだ。 (早く帰れて良かった。) 心からそう思いながら、氷枕と冷たい飲み水を用意して、寝室に戻る。 寝ているかと思ったが、イルカは起きていた。 「……あっ。」 カカシを見て、小さく声をもらすイルカ。 (ああ、やっぱり怖かったんだね。イルカ先生。) 悟ったカカシは、優しく微笑み、まずイルカの枕を氷枕と交換した。 それから、汗ばんだ寝間着と下着を新しいものに着替えさせ。 冷たい飲み水をイルカに飲ませた。 「カカシさん、俺……」 再び横たえさせられ、イルカがカカシを見上げる。 「大丈夫、心配しないで。イルカ先生がよくなるまで、俺はどこにも行きません。」 優しく、カカシはイルカの頭を撫でる。 「だから安心して休んで下さい、イルカ先生。」 「はい……」 ほっとした表情を浮かべると、イルカは、すっと眠りに落ちていく。 冷たい氷枕が心地よいのだろう、眠る表情も、先程よりは楽そうだ。 カカシはそれに安堵して微笑み、イルカを起こさないように寝室を出た。 「さて、何を作ろうかねえ?」 小さく呟き、カカシは台所に立つ。 食材の確認をしようと冷蔵庫を開けて、カカシははっとした。 中にあった食材は、全て、カカシの好きなメニューの材料となるものばかり。 「イルカ先生……」 カカシがいつ帰ってきても、彼の好物で出迎えられるように。 そんなイルカの想いが伝わってきて、カカシの胸が温かくなる。 「……俺も、頑張ろ。」 イルカのために、栄養があって食べやすいものを作ろう。 カカシは、冷蔵庫の中から、いくつかの食材をチョイスして取り出した。 「…ん…」 イルカは目を開けた。 時計が示す時刻は、午前七時過ぎ。 明け方、カカシが帰ってきたような気がしたけれど、今寝室にいるのはイルカだけだ。 熱と、カカシに会いたいという自分の願望が見せた幻だったのだろうか。 寂しさに襲われたイルカがふと見ると、枕は氷枕に、自分が来ている寝間着は新しいものに替わっていた。 「あ……」 カカシが帰ってきてくれたのは、夢ではなくて現実だということ。 その証拠を見つけて、安堵が広がり、イルカの涙腺が緩んだ。 「うっ……く。ひっく……う。」 「ごはんできましたよー。イルカ先生、起きて下さい。……って、イルカ先生!!?」 湯気の立つ土鍋を載せたお盆を持ったカカシが、その瞬間に寝室に入ってきて仰天する。 慌てたカカシは、テーブルにお盆を置くと、イルカに駆け寄って抱きしめてくれた。 「どうしたの?どこか苦しい?」 「違います……」 小さく答えて、イルカは、カカシに甘えるように身体をすり寄せた。 「カカシさんが帰ってきたことが、夢じゃないんだなぁって。つい……。」 「ん。」 やはり、イルカは不安だったらしい。 こんな時のイルカをどうしたらよいか、カカシはちゃんと分かっている。 イルカの傍にいること。 イルカが安心してくれるまで、イルカを徹底的に甘やかしてあげること。 「ちゃんと現実ですよ、イルカ先生。」 「はい。」 優しく頭を撫でると、イルカは、はにかんだような、安心したような、可愛らしい表情でカカシを見上げた。 「さ、薬飲まないといけませんからね。まずはごはんですよー。」 カカシはお盆を持ってくると、土鍋のふたを取った。 「わっ……煮込みうどん。これ、カカシさんが?」 刻んだ長ネギと、食べやすいように丁寧にほぐされている鶏肉。 溶き卵でとじられた上に、彩りよく散らされている三つ葉。 アツアツの中身を見て、イルカが小さく感嘆の声をもらした。 「……俺の、ために……?」 「はい。」 ついでに俺も朝飯がてら食べようって思っちゃったんで、こんな大きい土鍋づくりになっちゃいましたけれど、とカカシは笑う。 「ありがとうございます。カカシさん。」 カカシが、自分のために作ってくれた。 嬉しくて、イルカの目に涙がにじむ。 「俺……俺……」 「だから、何も言わないでって言っているでしょ?イルカ先生。」 言わなくても、言いたいことは分かるから。 そう微笑んだカカシは、枕やタオルをかき集めて即席クッションを作ると、イルカが起き上がってもつらくないようにしてくれた。 それから、小鉢に煮込みうどんを取りわけて、箸と一緒に、イルカに渡す。 「はい、イルカ先生。無理して全部食べなくてもいいけれど、でも、この小鉢の半分は頑張ってね?でないと、薬でお腹壊しちゃうから。」 「はい。」 受け取ったイルカは、「いただきます」と言うと、ふうふうしながら、うどんを口に運んだ。 「……おいしい。」 「ん、よかったです。」 カカシは微笑む。 「食べたら、薬飲んで……また寝て下さいね?まずは風邪を治さないと。」 俺の疲れを癒してくれるのは、それからね? 治ったら、たっぷりいちゃいちゃしよう? いたずらっぽく、カカシが耳元で低く囁くと。 イルカは、ぼんと真っ赤になった。 決して熱のせいではない赤さの中で、イルカは、ぼそぼそと、カカシに答えたのだった。 「……はい……」 (終) こちらのお話は『◆灰色の天空◆』のゆずり葉様がフリー配布していたのを蟻が貰ってきたやつです。 こんな素敵なお話をフリー配布してくださいましたゆずり葉様にとっても感謝しております。 どうぞお読みになる皆様も存分に堪能して下さいですvv お宝へ |