桜狩





 その桜は、桜並木から少し離れた所にひとつだけ咲き誇っていた。
 ひとつさびしく咲くその桜は、とても堂々としていて陽の光の下ではとても立派に見えた。
 夜のその桜は、闇に属する俺の隣人なのに
 まるでそこはポカポカと暖かい光の世界のように見えた。
 俺には遠い光溢れる幸せな世界のようだった。
 それは、闇に属する俺には絶対に相容れない世界だった。

 俺はその世界を羨望の眼差しで闇のなかから眺め見るだけだった。

 いつの頃からだったか、光溢れるその場所に1人の男が昼寝をしているのを見かけるようになったのは

 その男は、この桜の木の下で本当に気持ちよさそうに寝ていた。
 その情景はまるで陽だまりの化身が昼寝を楽しんでいるようだった。
 まさにこの情景は平和を象徴しているようだった。

 そこは、憧れの世界
 俺には遠くて
 手が届きそうに見えるけど
 決して触れることのできない
 光の世界

 光の世界に近づけば近づくほど
 俺の闇が浮き彫りになり
 それに沈み込む

 だから俺は桜の影からそっと
 その陽だまりを眺める

 その人は、漆黒よりもなお黒い髪をしていながら陽だまりが似合っていて、その鼻梁を横切るように傷がついていた。
 その寝顔はやわらかくまるで春の陽だまりのような微笑みをたたえていた。

 俺は何もかもを忘れてそのひと時を過ごす。
 いったい彼の瞳はどんな風に世界を写すのだろう。

 闇に囚われてただ壊れゆくだけの俺だったけど
 このひと時を過ごすようになってから
 俺の心はなぜか凪
 少しだけ人らしくなったと ……爺が言ってた

 今日もまた俺は闇を行く


 叶うのなら…
 いつか陽の光りのもとでこの人と会ってみたいと…



fin






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