願い事は?





 朝から体に違和感はあった。
 でも、今日は待ちに待ったデートの日
 あの人と恋人同士になって、……いや、出会ってから初めての事だった。


 最初は、確か明日がお休みなんですよと何時もと変わらない話をしていたはずだった。
 気づくと何時もの心地よい沈黙が降りていて、俺はそんな幸せをかみしめていた。

 しばらくすると、彼から僅かばかりの緊張した気配が感じられたと思ったら、一息後意を決した彼が躊躇いがちに言った。

「……明日、待ち合わせして…どこかに出かけませんか?」
「明日ですか?」

「そう。あ す ……デートしましょう」

「で、デ・デート!! か、カ・カカシさん。お、俺と本当に……そ、そのデートしてくれるんですか!?」
「イルカさんは、俺とデートしたくないの?」
 哀しげな瞳で俺を見つめてカカシさんは少し首を傾げた。
 俺は、彼の言葉が信じられなくって、その言葉に吃驚して、自分でも何をやってんだろうと、後からそう思うほど取り乱して、思い余って俺はカカシさんに飛びかかり、押し倒して、詰め寄って、彼の上に馬乗りになり、アンダーのネックあたりを握りしめカカシさんをガクガク揺さぶっていた。
「本当に本当ですか。カカシさん」
「イ、 イル、カ…さ、ん。……ほ、…ん……と、……だか、ら……っう!!」
 余りにも俺が彼の頭を振りまわすからうっかりカカシさんは酔ってしまったのかぐったりしてしまった。

「うわっ!! すいません。カカシさん大丈夫ですか?」
「ぅっぷ。だ、大丈夫です。少し休めば…」
 少し青ざめた顔で彼は、苦笑していた。
「で、イルカさん。デート、どうしますか?」
「したいです!!」
 俺は勢い込んで即答した。
 カカシさんとデート……考えただけでも涎が…ってちっがーう!!と心の中で絶叫しながらうきうきと浮だって、顔が綻んで頬の筋肉が揺るみっぱなしだった。
 そんな俺を見ていたカカシさんの顔も俺と同じようにだらしのない顔をしていた。

 その後俺たちは、待ち合わせ場所は何処にしようか、時間は何時が良いかとか、何処へ出かけようか、そんな話をして、明日の計画をしっかりとたてた。
「じゃぁ。明日ね、イルカさん。遅れないでね」
「それは、カカシさんの方ですよ。聞いているんですからね、遅刻癖があるって」

 そんなことを言ってじゃれあって、俺たちは明日を楽しみにして別れた。



 だから、俺は少しの違和感の為に楽しみな今日のデートを中止にしたくなかった。
 それに、本当に具合が悪くなったらカカシさんに言って、少し休めば大丈夫!! そんな風に俺は考えていた。中止する。 と言う選択肢は最初から頭の中にはこれっぽっちも存在しなかった。

 そして、デート本番。
 カカシさんに会ったらすっかり体の違和感はなくなっていた。
 一番の驚きは、俺より先にカカシさんが待ち合わせ場所に来ていた事だった。

 俺は、カカシさんと一緒で、充実した、楽しい休日を満喫した。
 結構遅くまで2人で遊び倒した。
 そんなに遅くないけど、明日のことも考えて早々に切り上げることにした。

 こんな事はそうそうあることじゃないから俺は出来ればもっとカカシさんと過ごしたかったけど、彼がそれを許してくれなかった。

 女性じゃないから大丈夫だと言ったのだけどカカシさんは頑として聞き入れてくれず結局俺の住みかまで送ってもらってしまった。
 しかも扉の前まで…カカシさんは心配しすぎだとそう思った。
 それとも彼も俺と一緒で少しでも長く一緒にいたいと思ってくれているのだろうか? それなら嬉しいなぁ。
 そんなホワホワした状態で歩いていた俺はいつの間にか家についていた。
 まるで雲の上でも歩いているような、まるで実感が伴ってこない状態だった。
 浮かれすぎ自分と内心で苦笑いをしていた。

「イルカさん、…その、疲れてない? 大丈夫?」
「カカシさんは本当に心配症ですねぇ。俺は大丈夫ですよ。今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました。それでは、また」
 安堵の息を吐いてから、彼は幸せですと顔に貼り付けて微笑んだ。
「良かった。こちらこそ楽しかったです。またね、イルカさん」
 俺の顔に手を添えて、触れるだけの接吻けをした。
「じゃぁ。おやすみなさい」
 彼は、爽やかに笑って、手を軽く上げ、帰って行った。
「……」
 俺は顔中真っ赤にして、カカシさんの姿が見えなくなるまで見送って、俺は部屋の中へと入って行った。
 そして俺は、カカシさんの気配が感じられなくなると不意に、足の力が抜けて、無理に力を入れようとすると、そこがプルプルと震えて、次第に力を失っていき、俺は……
 そこで、俺の意識は途切れた。



 気づくと俺はベッドの上に寝ていた。
 何で俺はここで寝ているのだろうと訝しみながら周りを確かめる。
 そして、すぐ横にカカシさんがいるのに気づいた俺は、彼がいてくれることが嬉しくって、なぜ自分が寝ているのかとか全てがどうでも良くなって、「あっ!! カカシさんだ」とにっこり微笑んだ。
「『あっ!! カカシさんだ』じゃありません!! 俺がどれだけ……」
 カカシさんは体をぶるぶると震わせて硬い声でそう言った。
 何故だかカカシさんはとても怒っているようだった。
「??? もしかして、怒っていますか? カカシさん」
 自信無げに俺がそういうとカカシさんは顔を引きつらせて、
「あなたの行動に呆れて、自分の愚かさに後悔してるんですよ。…具合が悪いなら悪いと言って下さい。そうと知っていたら今日のデートは中止にしてゆっくりと休んだのに。それにデートはまた今度にすれば良いだけなんですからねぇ……」
「次なんかない!!」
 カカシさんのその言葉を聞いて俺は彼の言葉尻を奪って、体を勢いよく起こしながらそう言った。
 すると俺は眩暈を起こして結局はまた布団の中に逆戻りした。
 そこで初めて俺は自分の体が変だと気付いた。そして、自分の意識がカカシさんと別れた後くらいから無いことに気がついた。
 そこに至ってカカシさんのご立腹の理由に行き着いた俺は、恐る恐るカカシさんを見返した。
 カカシさんは俺の変化に気がついたのか、思い出した?とその瞳が俺にそう語っていた。
「ごめんなさい」
 俺は、とても小さな声で申し訳なさ一杯で、そう答えるのが精一杯でとても情けなかった。
 言い訳を言わせてもらえば、俺はそんなに自分の状態が悪いとは考えていなかった。
 まさかカカシさんの気配が消えたとたん意識を手放すほどだったとは、

 そんなに気を張っていたのかと、そんなにデートがしたかったのかと……

 …あぁ。そうさ、俺は彼とのデートをとても楽しみにしていた。
 この先もう一度あるかないかの大チャンス。
 逃がす手はない
 だから、多少体に違和感を感じても無理をしてでも行きたかったのだ。
 いつもなら、違和感を感じた時点で慎重になって家でゆっくりと過ごそうとするのだが、今回は、どうしてもそれを選ぶのがいやだった。
 無理を少しした自覚はある。
 でも、倒れる程したつもりはなかった。
 カカシさんには悪いことをしたと思ってもいるが、
 今のこの状態も悪くはない。
 心配したカカシさんが俺の枕元で甲斐甲斐しく俺の世話を焼いてくれる。

 自慢じゃないが俺はそう滅多に風邪など引かない。
 1年に1回引けばいいほうで、すこぶる健康体だ。
 だから、カカシさんに看病してもらえる事なんてこの先一生ないと思っていた。
 俺のささやかな夢がかなっている。
 今日はとっても良い日だ
 俺の念願が、叶えられないと思っていた願いが二つも叶ってしまったのだから
 ついでにちょっと甘えちゃおう。

 そうして、俺はカカシさんに甘え倒して残りの休日を過ごした。
 なんて幸せな休日なんだろう

 俺はカカシさんに添い寝をしてもらいながら
 その幸福に身をゆだねた






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