無垢けき白
正午を過ぎた頃から、雪がちらつきだした。
降り立っては、端から溶け、溶けては降り立つ、雪。
ユラユラと気まぐれのように降ってくる。
この勢いでは積りそうにもなかった。
そして、夜半にはやんで、朝にはきっと雪が降っていたなんて形跡は少しも残っていないだろう。
でも、この雪を見たのなら、子供達は雪がたくさん積もることに期待して、明日まったく積もっていないことに落胆をするのだろう。
この雪はこの里をほんの少し薄らと降り積もり、朝の光の元に溶けて消えゆくひと時の夢。
子どもたちはきっとガッカリするだろう。
たくさん積もれば雪で遊べただろう
その瞳をキラキラさせて
眩しい光を放つように
どうか明日まで残ってますように
ほんの少しのドキドキと
ほんの少しの童心
雪への憧れとワクワク感
子供の時の純粋な遊び心
何時もとは違う日常
そんなことを思いながら…、
もし、起きた時まで雪が残っていたら
そのまっ白い雪の上に足跡を付けようと
そのことを楽しみにして、就寝した。
朝起きると、世界は静寂に包まれていた。
水の流れる音も
雪の崩れ落ちる音も
鳥の囀りさえも聞こえない
無音の世界
きっと雪は一欠けらも残ってないなと思いながら俺は外への境を開け放った。
その瞬間、目が眩むほどの光の粒が飛び込んできた。
空はどんよりと暗雲が垂れこめて
光なんて微塵も届かないはずなのに
目の前には
陽の光を絶え間なく反射して輝く雪原が広がっていた。
真っ白な雪原
全ての汚物をその無垢なる白で覆い隠す
誰にも荒らされてない白
俺はそれを汚したくて
俺を刻みたくて
その一歩を踏み出そうとしたけれど
あまりの純白さに俺は恐れ慄き
結局その場に佇むことしかできなかった。
そうこうしているうちに、俺の横を子供たちが次から次に通り過ぎていった。
彼らは白き雪の草原で
ある者は、雪合戦をし
ある者は、雪達磨を作り
ある者は、雪に戯れ
ある者は、雪の上に寝そべり
皆思い思いに遊んでいた
俺はそれを羨ましそうに眺めていた。
彼らは歓声を上げ、キャッキャッと騒いでいた
その顔はどれもこれも何処かで見たことがある顔
でも、それが誰なのかはっきりしない
まるで、ここは幻のような所だった
ただ、はっきりしているのは…
俺はここから向こうへは行ってはいけないようなきがした。
彼らの処へ行きたいけど、
それが俺には怖かった
長い間彼らを見ていた。
ふと気づくと、俺に向かって差し出されている小さな手があった。
その手をたどっていくとそこには一人の子どもがいた
やはりその子も何処かで見たことがある子だった。
白銀の光を放つ髪
雪のように白い肌
どこか眠たげでちょっと生意気そうなその眼差し
その瞳の色は…両目とも青灰色をしていた
あの人ならば片方はルビーのように奇麗な紅のはずだ
しかし目の前の子は両目とも同じ色をしていた
醸し出す雰囲気などは彼に酷似しているのだけれど
俺の眼差しはしばらくの間彼の顔と手を行ったり来たりしていた
彼はそんな俺を見て、小首を傾げまるで『一緒に遊ぼうよ』と言うように俺を見上げていた。
俺は、彼の手に引き寄せられるようにおずおずと自分の手を差し出していった。
俺の手が彼の手を取りしっかりと握りしめたと思ったら、俺は彼に引きずられるようにして皆の輪の方へと駆け出して連れていかれていた。
彼を見るといつの間にか俺の目線は彼と同じ高さになっていた。
いつの間にか俺も子供になっていた。
俺は彼と一緒にみんなと雪で戯れて遊びまくった。
久しぶりだった。
心行くまで遊んだのは
時間の経過は全く分からなくて
皆好きな時に休憩してまた遊ぶ
それの繰り返しだった
ずっとこのままみんなと、彼と遊んでいられるものだと思った。
しかし、気がつくと俺は彼と手を繋いでみんなを見ていた。
独り、独り とゆっくりと俺たちの方へ近づいて来たかと思ったら、軽く肩に手を置いてそして俺の横を通り過ぎて行ってしまった。
別の人は、俺たちの頭の上に手を乗せてぐしゃぐしゃと撫ぜてから通り過ぎて行く者もいた。
みんなは、俺と彼にそれぞれ縁のある者だと思った。
みんな、俺たちを見るその眼は慈愛に満ちていて
その行為は、まるで何かを託すようなそんな仕草に見えた。
独り、また独りと俺たちを通り過ぎ、目の前に誰もいなくなったら俺は彼の方を見やった。
すると彼もまた俺の方に顔を向けてきた。
けど俺たちは決して振り向きはしなかった。
ふとした予感があった。
振り返ってはいけないと……
それは、俺たちとみんなの境界線
それは、生きていく世界が違うことを物がったっているのだろう
いや、今なら解る。
彼らは、今は亡きモノたちだった。
見知っているけど
知らない姿
だって俺はみんなの子供時代の姿なんて全く知らないのだから
でも懐かしかった。
どこかで見たことがあるとも思った。
今なら解る隣の彼は……カカシさんだ
彼もまたみんなの所に帰ってしまうのだろうか
俺を置いて・・・…
カカシさんは、ただ静かに涙を零していた。
その顔に表情は窺えず
涙だけを零し続けていた。
まるで知らぬうちに零れているように
俺はその涙を拭ってあげたくって、その頬に繋いでいない方の手をそっと添えた。
カカシさんの涙は俺の手を伝ってなおも流れ続けていた。
すると、カカシさんも俺の頬に空いている方の手をそっと添えた。
その行為に俺は初めて気がついた。
自分もまたカカシさんと同じように涙を零していたことに
そんな彼の行為が嬉しくて
今この時にカカシさんといれることが幸せで
俺は、その手に頬を擦り寄せてそっと微笑んだ。
するとカカシさんもまた涙を零しながら俺に微笑みかけてくれた。
目が眩むほどに幸せだった。
彼はとても奇麗で神聖なもののように見えた。
そんな彼を見つめながら俺は何時しか意識を手放した。
だから、その後カカシさんがみんなの所に帰ってしまったのか、確認することが出来なかった。
気がつくとそこは、どっかの簡易テントの中のようだった。
俺はどうして此処にいるのか思い出せなかった。
一時の間ボーっとしていた。
気がつくと何故かあの時カカシさんと繋いでた方の手がホカホカと暖かかった。
ゆっくりと視線を巡らしてからそちらを見やると誰かと手を繋いでいる事が分かった。
繋がった手の先を見やると隣の布団からその手は出ていた。
そして、顔を上げていくとそこには心配そうに俺を見つめて横になっているカカシさんが見えた。
「……カ、カシ、…さ、ん…」
俺はそれだけを言うのがやっとだった。
そこは崩壊した木ノ葉に急きょ設置されたテントの中だった。
俺は、崩れ去った現実に、安否の分からなかったカカシさんから、逃げてしまったのだ。
白い雪の世界に
全てを真っ白に覆って隠してくれる幸せな世界に
俺は瓦礫の上に倒れていたそうだ。
丁度目を覚ましたカカシさんがそれを知って早々に自分の隣に俺を寝かせるようにとお願いしたらしい。
俺は収容されてすぐに居場所をカカシさんの隣へと移された。
それからずっとカカシさんは俺の手を繋いでくれていたらしい。
不安に駆られながらもずっと
俺が今ここにいるのはきっと彼のおかげ
呼び戻してくれたのは彼
だからみんなは俺たちに未来<あす>を託していったのだろう……
いや、託されたのだみんなから
まっさらな未来<あす>を
うへへへへへ・・・
今回の粗品は蟻が一年ぐらい前に書いたお話です。
うっかり読みなおした蟻がうっかり
『くさっー!!!』
と叫んでしまう程内容がくさかったです(凹)
うっかり憤死出来るほどです。
更に、内容のつじつまがチンプンカンプンです(爆)
読みなおしていてコレどうよ?と思える内容でもありました。
それでもお読みいただく方が楽しんでいただける話であれば幸いです